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【イベントレポート】変革の絶好機「人事戦略」総整理 金融業界編 課題ファースト×データ活用で取り組む「人」中心経営

■企画趣旨

日本の総人口は,2050年には現在の約8割になるとの予測がされています。15歳から64歳までの人口、いわゆる生産年齢人口は,2040年には現在の約8割になると言われ、人手不足への対策を喫緊の経営課題として取り組む企業が増えています。加えて昨今、人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方(人的資本経営)への注目が高まっており、人事部門は従来の管理的業務から経営に貢献する戦略部門として果たすべき役割が変化しています。

「人」を中心に持続的な成長を実現していくための実践事例をいくつか挙げると、

(1)人事データを活用した人的リソースの最適配分やデジタル技術を活用した労務管理の自動化などによる業務の効率化、生産性向上

(2)従業員のスキルや能力をデータで把握し、それぞれの段階に応じた適切な育成プランの提案による人材の育成と定着。モチベーション向上、脱属人化を推進

(3)個別最適ではなく組織全体としてビジョンの共有、意識改革、行動変容を促し、パフォーマンスの向上に寄与する

など、デジタル技術の活用をベースに人事戦略を推進していくことが求められています。

一方で、戦略の目的やあるべき姿を描かないまま、デジタル化することを目的としてしまった結果、現場や経営層の理解が得られず付加価値を創り出せないケースも多く、自社が置かれている現状をしっかりと分析し、どのようなアプローチが最適かについて知恵を出し合うことが大切になっています。

そこで本カンファレンスでは、「人事戦略 総整理」をテーマに、金融業界の取り組みに焦点を当て、人事戦略の立案、実行、検証を考察し、自社における「人財育成、人財管理のあるべき姿」を構想した。

■基調講演

人的資本経営は、英語のHuman Capital Managementを漢字で表記したもので、人材を、消費される「資源」ではなく、投資をして価値を高める「資本」と捉えた経営のことで、「企業は人なり」の経営でもある。

企業は人なりとは、従業員一人ひとりがイキイキと働いて活躍し成長することで企業が持続的に成長するという考え方で、その実践においては、一人ひとりのポテンシャルを引き出してパフォーマンスを最大化させるマネジメントが必要だ。特に金融業界は従来の“金太郎飴型”から“プロスポーツ型”への大きな変革が急務である。

人的資本経営におけるデータ活用については、2018年にISO 30414「内部・外部への人的資本報告のガイドライン」が出版されたのを機に人的資本開示の動きが加速した。金融業界は第3次~4次産業革命の先頭を走る。日本では、2015年の「FinTech」元年以降、DX(デジタルトランスフォーメーション)が加速している。米国S&P500企業の、企業価値に占める無形資産の割合の推移は、2020年には実に90%に達した。

人的資本経営におけるデータ活用は、世界的に金融業界がリードしてきた(ISO 30414はドイツ銀行のサポートにより開発が進んだ)。ビジネスモデルが大きく変化する中、自社の変革のために必要/投融資先の評価や経営サポートのために人的資本経営のプロである必要——この2つの意味合いで、金融業界は他業界に比して人的資本経営を熱心に推進している。

金融業界は、関連ISO規格の普及も推進している。例えばISO 30414が示す人的資本領域(ワークフォース可用性、ダイバーシティ、リーダーシップなど)の人的資本データを元に、どの領域にどう投資すれば自社ROIが最大化するかを優先順位をつけて判断する、といった施策を行う会社が増えている。日本の人的資本開示の政策(法定開示)も整備され、有価証券報告書におけるサステナビリティ開示も進む。

人的資本経営による価値創造を語る際のポイントは以下である。
インプット⇒アクティビティ⇒アウトプット⇒アウトカムにおいて
・指標と目標が設定されている(定量性)
・ロジックが通っている(論理性)
-現状、虫食い状態の企業が多い
・ナラティブ(Narrative)になっている(納得感)-ナラティブは受け手が“腹落ち”して行動につながる物語

金融業界における充実した人的資本レポートの例は増えている。ドイツ銀行、ドイチェ・アセット・マネジメント、アリアンツ、アフラック生命保険、東京海上ホールディングス、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャルグループ、西武信用金庫……。必要に応じて参考にされたい。

金融業界の人的資本経営実践での重要ポイントは、下記のスライドを参照。

例えばドイツ銀行の人材戦略の4本柱は、(1)働き手を将来のニーズに整合させる (2)全てのリーダーが将来をリードできるようにする (3)全ての従業員のポテンシャルを解き放つ (4)銀行を安全に保つ、だ。各柱におけるデータを活用した開示内容は、(1)働き手の状況/ハイブリッドな働き方とその先 (2)我々のリーダーシップのDNA/DEI (3)キャリアスタートと異動/我々の学習文化 (4)パフォーマンスに報いる、だ。

先掲のスライドの3番目の項目、従業員エンゲージメントについて。従業員エンゲージメント・スコアと業績(売上高営業利益率)には相関関係が認められるというリンクアンドモチベーション社の調査結果がある。英国の研究結果では従業員エンゲージメントを高める4つの要素として、戦略的ナラティブ/エンゲージメントを高めるマネージャー/従業員の声/組織的インテグリティ(誠実さ)、を挙げている。

従業員エンゲージメント×ウェルビーイング。これは当然、両方が高い「あるべき姿」を目指したい。ウェルビーイングはキャリア/フィジカル/フィナンシャル/ソーシャル/コミュニティの5つに大別されるが、キャリアウェルビーイングが最も幸福度に寄与するとされ、「働きがい改革」を強化する企業が増えている。

先掲のスライドの4番目、ダイバーシティD&I⇒DEI⇒DEIBという流れがある。EはEquity(公平性)、BはBelonging(所属・帰属意識)だ。人口統計学的多様性(デモグラフィック・ダイバーシティ)は差別をなくすには重要だが、企業の業績には相関しない。一方、認知的多様性(コグニティブ・ダイバーシティ)は組織のパフォーマンスと相関する。

認知的多様性×心理的安全性。最も成功を収めているチームはメンバーがポジティブな行動様式と感情を共有しており、認知的多様性も心理的安全性も高い。

まとめ。DXによるビジネスモデルの変革はあらゆる業界の課題ではあるが、テクノロジーの進化の激しい金融業界では特に大きな課題であり、そのための人材ポートフォリオの変革が求められる。

人材ポートフォリオの変革に向けて、多様な人材が入社し活躍するためには、働きがいが高まる企業文化を作ることだ。そして、その企業文化が実現するためのナラティブを、データを活用して語れることが重要である。

■課題解決講演(1)

◎人材育成の重要性/人員配置による効果的な人材育成

経済(GDP)成長と少子高齢化による人手不足が顕著な米国では、昨今「ジョブ型」の限界が到来している。企業側が設けたジョブを埋められない、また、ジョブの新設が追い付かない状態が見られる。そんな中「スキルベース(Skills-Based)」という言葉に注目が集まっている。ジョブ型からスキルベース=基点を人材とした人材管理へのシフトが起きているのだ。

固定のジョブを基点にするのではなく、各従業員がどのようなスキルを持っているのかを出発点に考える。限られた労働力を最大限に活用するために、より流動的なスキルベースの考え方に移行している。

翻って日本は、人手は存在するがスキル不足による「人材不足」の状態だ。GDPは減少しているものの労働人口は増加しているが、実際には企業は必要なスキルを持つ人材の確保に苦労している。日本人は世界の中でも社外学習・自己啓発をしない人の割合が高いという調査結果もある。そのような状況の下、日本企業は人材の強化を目的に多くの企業がジョブ型を導入し始めている。

しかし冒頭に紹介した米国の例のように、ジョブ型も万能ではない。実は、日本企業が従来培ってきたメンバーシップ型雇用は先述のスキルベースの考え方と類似している。人材の職務遂行能力(=職能。スキルに近い)を重視し、職能に応じた処遇を行い、長期的な成長を見据えた人材配置を行ってきた。例えば、デジタル人材の確保・育成に向けた取り組みとして「社内外研修の充実」を行ってきた企業の比率は米国やドイツなどより高い。

つまり日本における人材マネジメントは、ジョブ・スキルを定義し人材要件を明確化するジョブ型と、ポテンシャルを重視し中長期的な人材育成を行うメンバーシップ型の「ハイブリッド型」が最適解なのだ。そして、スキル管理の高度化によって動的な人材ポートフォリオを実現できる。

以下、弊社の大手企業・法人向け統合人事システム「COMPANY」を用いての、スキルベースのマネジメントと従来のメンバーシップ型を組み合わせたハイブリッドな人材マネジメントの支援実例を、画面を表示しつつ紹介する。

※人材情報の活用(ポジション分析、ロールモデルとの比較での育成、パーソナル分析など)/営業適正・スキルを参考にした配置・教育検討/受検可能なスキルチェック/Jobポスティング・キャリア開発支援/ラーニングプラットフォーム(学習コンテンツ検索・推奨機能)/異動自己申告、などの機能を画面とともに紹介。

人材マネジメントにおける企業の大きな課題は「人材データを活用できる環境の整備」「人材データ分析を意志決定に迅速に使用」である。
・人事データが複数のシステムやExcelにまたがって格納されていてデータ集約が困難
・タレントマネジメントに必要なデータが定義・収集されておらずデータが存在しない
・タレントマネジメントと通常の人事業務が連携していないがゆえに分析に多大な手間
といった状況をよく聞く。こうした情報管理における課題は、規模の大きな企業ほど被る負のインパクトは大きい。

COMPANYを開発・販売・サポートしている弊社は、スピーディな人材情報の可視化の実現・解決を支援している。COMPANY導入により日々の人事労務業務を通じて自然と活用できるデータが蓄積され、その情報はタレントマネジメントの仕組みとシームレスに連携が可能だ。

部分最適ではなく、全体最適によって今後の日本企業における人材マネジメントをサポートできる。今まで述べてきた課題のほか、スキル定義を進められない/給与業務を効率化・アウトソースしたい/タレントマネジメントのための運用設計をしたい、といった課題をお持ちの企業も、ぜひ一度弊社にご相談いただきたい。

■ゲスト講演(1)

◎人的資本経営の歩み/経営戦略と連動した人事戦略

1879年に日本初の保険会社として創業。145年の歴史を持つ当社は、人的資本経営を通じて、遠心力と求心力双方の強化を通じたグループ全体の進化を目指している。人材育成の哲学は「人を真摯に育てる」「人を真摯に大事にする」だ。「世のため人のために挑戦する人材」と「自由闊達な風土」の2つを創業以来、大切にしている。

関東大震災や第2次世界大戦など、あまたの困難を乗り越え、2002年の東京海上ホールディングスの設立を経てグローバル展開も推進し、2022年度の元受正味保険料は約5兆円に達している。昨今は経営判断の質とスピードを高める経営体制を構築している。

保険は「People’s Business」であり、パーパスの実現に情熱を注ぐ社員を育てる、そうした風土・カルチャーをつくることが重要だ。パーパスは「お客様や地域社会の“いざ”をお守りすること」。人的資本経営における東京海上グループらしさとは、「人」の想いと力を信じること「人」の魅力が「人」を惹きつけ、「人」の力がパーパスを実現していく

中期経営計画と連動した人事戦略における“人材”と“企業文化”の関係性を示した図は以下。パーパスを起点に、グループ一体経営を支える“人材”と“企業文化”が相互に作用しながら相乗効果を生み出していくことを目指す

◎グループ一体経営を支える“人材”と“企業文化”

グループ一体経営を支える人材では、グループ経営体制の強化(グループ一体経営を強力に推進する経営体制を構築)と、戦略整合的な人材ポートフォリオの構築(経営戦略遂行に必要な人材の採用・育成・最適な配置)を行う。例えば、当社独自の人材育成機関であるTLI(Tokio Marine Group Leadership Institute)。国内外のタレントマネジメント・データと連動したプログラムを組成。国内外の経営陣がコミットし、当社グループに息づく“パーパス”をバトンリレーし、グローバルリーダー育成の叡智を世界中から結集し活用している。
加えて、パーパスの実現には、社員一人ひとりが自身のなりたい姿を描く、自律的なキャリア構築も非常に重要であると考える。東京海上日動火災保険における自律的なキャリア構築「LINK」は、My Aspirationを起点とした挑戦の仕組みだ。My Aspirationと会社のパーパス、そして組織の目指す姿とのつながりを強め、個人と会社の大きな成長とより良い社会づくりへの貢献を実現する。
※My Aspiration=自分自身がこころから願う未来に向けた、譲れないこころざし。お客様のために、社会のために、実現したいこと。

同社での自律的なキャリア構築や、My Aspirationを支援する制度を紹介する。「プロジェクトリクエスト制度(社内副業)」は、所属部署にかかわらず、現場所の業務を担いながら本店のプロジェクトに参画できる仕組み。「JOBリクエスト制度」は、自ら希望する職務に手を挙げ、これを担うことによってモチベーションが向上し、組織全体のさらなる活力向上に繋げる仕組みだ。また、「Tokio Marine Innovation Program(TIP)」は、ビジネスモデルの創造・新規事業創出を目的とした社内公募制プログラム。優秀案は事業化を目指すことも可能だ。

以上、人材関連について述べてきたが、次にグループ一体経営を支える企業文化について。グループ一体感の醸成(多様な人材をつなぐOne Teamの実現)と、エンゲージメントの向上(社員一人ひとりが働きがいをもってイキイキと健康的に働く組織の実現)を目指している。

東京海上グループは、DE&Iを成長戦略の一丁目一番地と位置づけ、すべての人が持てる力を最大限発揮できる人事制度や人事施策、職場環境の整備に向けた取り組みを推進し、グローバルベースのシナジー創出や意思決定層の多様化・グローバル人材のエンゲージメント向上につなげることを目指している。例えば、多様な人材が持てる力を遺憾なく発揮できるインクルーシブな企業文化を作ることを目的に、2020年に「プロジェクトMizu」を発足させた。名前はことわざの「魚の目に水見えず」に由来。グループの透明性を高め、ネットワーキングイベントやワークショップなどを行い、多様性のあるメンバーが協業しやすい環境を整備している。

さらに、ジェンダーギャップ解消への取り組み事例として、東京海上日動火災保険で実施している「企業横断型 クロスメンタリング」を紹介。クロスメンタリングは、支援者、助言者となるメンターと支援・助言を受ける立場であるメンティが異業種の企業をまたいだ組合せで行う取り組みである。参加したメンターからは、自分自身のアンコンシャスバイアスやジェンダーギャップへの気付きにつながり、自分自身の部下との接し方に変化があったという声が聞こえ、メンティからは社外だからこその自己開示ができた、内省が進み自律的にキャリアを考えられるようになった等、前向きな変化が見えた。

変化の激しい時代。社員がモチベーションを上げ、前向きに行動することを可能にする環境や風土=“空気感”を会社が作ることが大切だ。多様な社員が前を向いて、優れた戦略や商品、イノベーションを生み出せる自由闊達な空気感づくりに創意工夫を続けていきたい。

■特別講演(2)

好奇心を持ちましょう。集中しましょう。夢中になれば“ゾーン/フロー”状態に入り、生産性が上がる。成長志向=難度が高く、学びの多い機会を好んで積極的に引き受ける姿勢は大切だ。まずは以下の質問に自分で答えてみてほしい。

1.    私は難度が高く学びの多い仕事を好んで引き受けます
2.    私は新しい能力を開発する機会を常に探しています
3.    高い技術や知識レベルが必要とされる仕事を好みます
4.    人は皆、自分自身を大きく変えることができると思っています

人事や経営に携わる方は、特に4.を信じて「人は変われる」という信念を持つべき。そうしないと組織開発や人材育成はできない。

◎Un-Learn、学びほぐし

“Learn×Un-Learn” 新しいやり方を素早く学習することと、学びほぐす(時代遅れのやり方を忘れる)。とくに後者が重要と考えている。また、働き方改革よりも「経営改革」「生き方改革」を考えてほしい。経営や人事の皆さんの信念や価値観が動けば、世界も動く。

仕事とはおしなべて「問題解決」である。皆さんや、皆さんの会社や社員が行っている仕事の本質的な意味を問い続けよう。「何をしているのか?」と問われたレンガ職人の例えで言えば、皆さんの役割(回答)は「歴史に残る偉大な大聖堂を作っている」、つまり後世に残る事業に加わり世の中に貢献することが目的でなければならない。インパクト(影響)を与えるのが仕事であることを理解したい。

この仕事にはどんな意味があるのか?」を、人事や経営に携わる人も常に考えたい。AIの発達などで、情熱/創造性/率先をもって人間にしか生み出せない新しい価値を創造する「クリエイティブ・エコノミー」の時代になった。先述の経営改革と生き方改革双方により、組織が求める業務パフォーマンスと、どう生きたいか・どう働きたいかを含めた個々のキャリアを両立させるべきなのである。

企業のビジョン・ミッションを至上に、すべての施策において共通する「Why」を設定し、それぞれを効果的に運用する「What」「Why」を浸透させよう。

人は「資本」ではない。組織経営に携わっている我々もまさにUn-Learn=学びほぐすことが必要だ。人を人として見る!ことを忘れてはいけない。相手・組織の「価値観」「最適」を見極め、寄り添いながら個人と組織のパフォーマンスを高め、隣接組織のパフォーマンスまでも高めるようにしたい。社員には希望、社会的承認、自己実現の喜びを与えたい。

仕事とは役割である。経営者は、周りのメンバーの好き嫌いや性格に感情やバイアスを抱くことなく、社員の皆さんが常に最高のパフォーマンスを発揮できる状態を一緒に作ることがシゴトだ。

◎心理的柔軟性

「今、この瞬間」に意識を向け、大切な価値に集中して効果的に行動する能力を「心理的柔軟性」という。これを保持することにより、挑戦やストレスに直面しても価値観に基づいて建設的に対処できる。下記を自分に問うてみてほしい。

1.    困難な状況でも落ち着いて対応し、変化に柔軟に適応できます。
2.    ストレスが高い時でも感情を管理し、自分の価値観に基づいて行動します。
3.    新しい調整に積極的で、失敗を恐れずに自己表現ができます。
4.    自己の長所と短所を認識し、継続的な自己改善に努めます。

社員にも聞いてほしい自己認識を深める7つの質問は以下。
1.    あなたは仕事を通じて何を得たいですか?
2.    どうしてそれを得ることが大切なのですか?
3.    何をもって「いい仕事をした」と言えるでしょうか?
4.    どうして今の仕事を選んだ(選んでいる)のですか?
5.    去年の仕事は、今年の仕事にどう繋がっているでしょうか?
6.    あなたの一番の強みはなんでしょうか?

外から見える動きや思考の傾向=役割、である。そして役割とは、信念(正しい、事実だと思っていること)+価値観(大切にしていること)+期待(相手から望まれていること)だ。注意すべきは、ビジネスにおいて成果を生み出すためには曖昧さではなく「明確さ」が必要であること。変化や競争が激しい今の時代に、経験が長い人同士が共有する「想い」や「空気」を言語化していくことは非常に大切だ。

例えば、組織・経営の考え方には、実績成果⇔ビジョン/縦割り専業型⇔横断融合型/顧客利益起点⇔社会インパクト起点、という基本スタンスの差異がある。ビジネスモデルを勘案して、経営・人事側が組織をどのようにつくるかを明確にしないと、「ダブルバインドによる認知的不協和が起こる」ので、注意が必要だ。
※相反する2つの信念、価値観、または態度を示すことが周囲に与える精神的な不快感

Employee Experience journeyも考えたい。入社~オンボーディング~育成~業務~異動~評価……それぞれのイベントごとにどんな体験と自己効力感・モチベーションを提供していけるか。マネジメントは個人やチームのパフォーマンスの管理である。短期、長期、臨時、すべてのタームで考えたい。

◎生産性の高いチームとは

真に効果的なチーム(生産性の高いチーム)はどうやって生まれるのか? グーグルのプロジェクト・アリストテレスの調査結果では、チーム成功への鍵は、「心理的安全性」が高い/「信頼性」が高い/「構造」が「明瞭」/仕事に「意味」を感じている/社会に対して「影響」を与えている、の5つである。

生産性の高いチームには必ず心理的安全性がある。従業員が社内でネガティブなプレッシャーを受けず自分らしくいられると感じる状態。あるいは、同僚とお互いを高め合える関係をもち、建設的な意見の対立が推奨される状態、のことだ。

そこで、最後の問いかけ。
1.    私は自分の職場で自分らしくいられます。
2.    私が新しいことにチャレンジすることに、上司や同僚は協力的です。
3.    職場で周囲がネガティブなプレッシャーをかけることはありません。
4.    チーム内の意志決定では、全員の意見が尊重されます。

社員同士が同情/共感/思いやりを互いにもち、承認×感謝を伝え合うことは大切だ。ただし、大前提として職場は成果を生み出すための場所。心理的安全性=楽しくやさしい職場ではないし、心理的安全性=ゴールでもない。万能の特効薬はない。

最高のパフォーマンスを発揮できるのは、ボトムアップの重視/挑戦の文化醸成/コミュニケーションと協働の活性化がなされている状態である。変革とは、様々なアプローチで、現状の根強いパターンに変化のきっかけをつくること。変革は一部であり、全体でもある。

最後にお薦めしておきたいのは、(1)あるべき意識と行動を定義して奨励する (2)マネジメントに建設的なピアプレッシャー(仲間からの同調圧力)を働かせる (3)インフラや制度、ツールを設計し新しいパターンの土台とする、である。

当社が長期間にわたりプロジェクトを伴走している静岡銀行は「地域とともに夢と豊かさを広げます。」とすべてのステークホルダーに約束した。存在意義を考え、意図を明確にもち、ぶれない軸をつくることは大切だ。金融とは、仕事とは、本当の意味・意義とは、大切にしているものとは……を考え、社員の生産性が上がる本質的にやるべきことを考えていただければ幸いだ。

2024年8月21日(水) 会場対面・オンラインLIVE配信でのハイブリッド開催

source : 文藝春秋 メディア事業局