伊藤隆(1932〜2024)は、日本近現代史の一次史料を数多く発掘し、オーラル・ヒストリーの開拓者でもあった。門下生で近代史家の山本一生氏が師の素顔を描く。
「もう一年、研究を続けたい」
最後となった誕生会で、伊藤先生は声を震わせながらそう言われた。もしかしたらとの予感もあって、身が引き締まったのを覚えている。
思えば不肖の弟子であった。
国史学科を卒業するとき、大学院にと言われたが、就職の道を選んだ。それも新聞社や出版社ではなく、富士石油という石油精製会社だった。
就職したのは、大学を離れたかったからで、石油会社を受けたのは、新聞社などの試験に失敗したときに声をかけてくれたからであった。『巨人頭山満翁』を小脇に抱え、黒の別珍のパンタロンスーツで面接に臨んだが採用される。懐の深い企業だった。社長の岡次郎は、東電時代には小林一三の欧州旅行に同行し、その日記に登場することをのちに知る。
先生との繋がりはその後、年賀状だけとなった。毎年800通以上も賀状を出される先生にとっては、その他大勢の1通にすぎなかったのだろうが、私にとってそれは、彼方で微かに瞬く光だったのかもしれない。
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source : 文藝春秋 2025年1月号