「花子ちゃんをよろしく」大人気辛口解説者の粋なボトルキープ

第47回

エンタメ スポーツ
現役時代から相撲ファンを魅了し続けた北の富士 ©文藝春秋

 九州場所も佳境を迎えた11月20日、第52代横綱北の富士勝昭氏の訃報が飛び込んできた。NHKの大相撲中継ではダンディで辛口の解説者として人気を博していたが、2023年3月から病気療養中としてその姿を見せなくなった。訃報に際し、スポーツ紙各紙が一面トップで悼み、ベテラン記者らがそれぞれの想い出を振り返り、その人柄を偲んでいた。

 1990年代初頭、協会の初代広報部長に就任された頃、当時の筆者は雑誌記者として相撲場をうろちょろ。父親のような年齢で、威厳のあった北の富士さんのご尊顔を遠くから拝むだけだった。

 しかし、今から30年近く前のこと。かつての九重部屋前に住んでいたという友人が、幼少期から北の富士さんに可愛がられていたと知る。上野の小さな焼き鳥屋で飲んでいると、北の富士さんから彼女に電話があった。「今から北の富士さん、店に来るって〜」「えぇ?」。颯爽と現れた北の富士さんは、「あれ? どこかで見た顔だな?」「はい。今はフリーの相撲ライターで『どす恋花子』のペンネームで書かせてもらっています!」

 お会計はもちろん北の富士さん持ち。しかも店の大将に、「花子ちゃんがいつも飲む焼酎は何? それ2本入れといて」とさりげなく“粋”にボトルキープまでしてくださった。タクシーで送ってくださるなか、「ちょっとトイレ借りていいかな?」。(北の富士さんが我が家に? と狼狽するも)6畳と4畳半2間の古いマンションにお連れする。直後、友人がこう明かしてくれた。

「北の富士さんが『フリーライターってあんな部屋に住んでるのか……。いろいろ大変なんだな』ってしみじみ言うの。『銀座のママの部屋とは違うわよ(笑)。OLだってあんなものよ』と言っといた」

 翌日。私が小さな連載コラムを書いていた相撲雑誌の編集長宛に、突然北の富士さんから電話があったという。編集長曰く、「北の富士さんが『どす恋花子ちゃんをよろしく頼むな。男の世界で彼女、頑張ってるな』と言われましたよ」。

現役時代の北の富士 Ⓒ文藝春秋

 現役時代は型破りな横綱として数々の逸話を残し、新風を巻き起こしていた北の富士さんが“千の風”となった。

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source : 文藝春秋 2025年1月号

genre : エンタメ スポーツ