【イベントレポート】『真実の瞬間』第13弾 「また行きたい」実践コミュニティと共感のマーケティング

■基調講演

“顧客から顧客へ”が創り出す、コミュニティと共感
~コミュニティ型マーケティングの10のポイントを探る~

青山学院大学 国際マネジメント研究科 教授
宮副 謙司氏

九州大学法学部卒業。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了(MBA)。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了(博士:経済学)。西武百貨店、PwCコンサルティング、東京大学大学院特任研究員などを経て2009年4月より現職。専門分野は、マーケティング、流通論、地方創生論。担当科目は、「マーケティング戦略」「ファッション・リテイリング」「シビックエンゲージメント・プロジェクト」など。主な著書として『青山企業に学ぶコミュニティ型マーケティング』『新しい流通論』『米国ポートランドの地域活性化戦略』などがある。

◎マーケティングの基本的な考え方

マーケティングとは、「顧客にとって価値を持つ提供物(顧客価値)を創造し、伝達・提供する活動・プロセス(仕組み)である。価値の作り手(企業・組織)が価値を創造⇒価値の伝達と提供⇒実現された価値を受け手(顧客)が享受というフローだ。

マーケティング戦略策定の基本は、まず環境を分析し、マーケティングの目的とターゲット顧客を明確にし、価値を創造・伝達・提供するために最後は製品、価格、コミュニケーション、チャネルの各戦略に落とし込む。

製品戦略においては「3層の製品の概念」で捉える。コア(Core Product)は、中核となるベネフィット(便益)、顧客の本質的なニーズを満たす機能そのもの。形態(Tangible Product)は製品のコアを買い手に見えるようにするデザイン、パッケージ、ブランドネーミング。ここまでが正式な製品(Formal Product)だ。

◎最近の企業マーケティングの動きと新しい捉え方の必要性

付随機能(Augmented Product)は、使い方・楽しみ方の関連ソフトやアドバイス、アフターサービスなど付加機能である。最近はこの部分の差別化の動きが顕著だ。価値創造の新しい動きとして、製品の付随機能まで含めて一つの製品と捉えるようになっている。モノとサービスが一体化した製品戦略や、顧客が購入後に手を加えて完成品となったり製品機能を更新する商品も増えている。

売り手(企業)の製品の価格設定についても、最近はサブスクリプションなどサービスの価格をどう考えるか、中古品の価値や再販売の価格をどこまで意識するか、といった新たな考慮要素が加わってきている。

◎新しいマーケティングの捉え方としての「コミュニティ型マーケティング」

コミュニケーション戦略について。消費者の認知から購買決定までは、かつてはAttention(認知)⇒Interest(興味)⇒Desire(欲望)⇒Action(行動)の“AIDAモデル”で考えていた。しかし、昨今はブログ/SNS/仮想世界/トランスメディア・フォーマットなどの媒体経由のコミュニケーション・モデルが増え、受け手側同士の交流も進む。

例えばP&Gの「マイレピ」。直接的な製品宣伝よりも顧客コミュニティ形成を重視。ライフスタイル別に情報編集し、潜在顧客からコミュニティ形成を行っている。メーカーの立場でどのような経路で売るか=チャネル戦略を考える必要がある。自ら直接(営業、ネットなどによって)消費者に売るのか、卸・小売り(ネット小売業を含む)によって売るのか、だ。また、サーキュラーエコノミー/SDGsへの対応も考えなければならない。消費者の購入(利用)選択肢増の中で小売店舗の意義も問われている。

価値伝達・提供の新しい動きをまとめる。
・製品宣伝より顧客コミュニティ形成を重視。
・顧客を識別し、反応(購入前の関心から購買後の満足まで)を把握可能⇒常時接続の顧客関係を実現し活用へ
・ネットによる価値伝達(宣伝)と提供(販売)の融合の一般化
・作り手&売り手と顧客(買い手・使い手)が価値についてデジタルにリアルに交流し、共感しあって満足度を高める

マーケティング戦略展開の新しい動きのまとめは、以下のスライド参照。

企業(組織)と顧客の新しい関係は以下。
・顧客の使用場面を想定した顧客視点での価値創造
・企業~顧客双方向で継続的な関係での価値伝達・提供(常時接続を前提とした実数ベースのマーケティング)
・(異業種間の)複数の企業の協働での新しい価値創造

これらを踏まえ「コミュニティ型マーケティング」という捉え方に論を進める。

◎コミュニティ型マーケティングの適用と可能性

新しいマーケティングの捉え方は、(1)価値の創造-製品(Product)からサービス(Service)へ (2)価値の受け手-顧客(Customer)からコミュニティ(Community)へ、である。製品は付随機能まで概念を広げ、使うシーン(コト)など「サービス」と捉えて設計する。対象は直接の購買総的顧客ではなく、価値に共感する潜在的顧客まで広げ「コミュニティ」と捉えて設計するのだ。

そして新しいマーケティングの捉え方の(3)価値の伝達と提供-経験(Experience)を経て共感へ/購買・利用へ。企業が顧客コミュニティに働きかけるべきは、当該製品の認知・利用につながるような「経験」である。

本日お伝えしたい最も重要なスライドは以下だ。本論では以下のように定義する。企業から顧客へ=BCの関係、顧客間の関係=CCの関係、企業間の関係=BBの関係。

(1)    企業から顧客へ(BC)-企業からコミュニティへの働きかけ。※(1)~(4)はそれぞれ商品・企業などの具体的事例紹介あり。
【BC-1】企業は、顧客となる層の生活課題を解決する観点から、製品の付随機能までを捉えた価値を創造し、その価値を伝達するに際して、SNSやアプリなどデジタルな手法で顧客と常時接続した関係を形成する。コミュニティ入りした顧客は、自分の関心に応じ情報を得やすくなり、また他の顧客の意見や活動も見えて、自発的な情報発信や顧客間相互の交流が促される。

【BC-2】企業から顧客へのコミュニケーションでは、企業が創造する価値を顧客に共感してもらい、顧客が企業のコミュニティへ参加することを促すことから進める。

(2)    顧客から顧客へ(CC)-コミュニティ内における顧客関係
【CC-1】企業の顧客が顧客とつながり、企業の新たな価値を創造し、伝達、提供する。顧客相互の交流関係。
【CC-2】顧客間交流からの自然発生的な話題の盛り上がり

(3)    企業と顧客の関係。【BC-3】顧客を価値創造に取り込む
(4)新たな価値創造へ向けた企業と企業の関係。企業が他の企業と連携し(コミュニティを形成し)新たな価値創造(製品開発など)や価値の伝達・提供を行う。
【BB-1】他の企業との連携を生み出し、新たな製品開発や価値の伝達(コミュニケーション)、提供(チャネル)を協働する
【BB-2】他企業との連携を強め、維持・継続する(業務提携やJV企業を行う)

◎まとめ コミュニティ型マーケティングの特徴と今後への可能性

■顧客機能の拡張
・コミュニティ型マーケティングでは、顧客は価値の受け手に留まらず、作り手の価値創造にも貢献する⇒「顧客の役割」が従来のマーケティング学説よりも広い。
・顧客の反応が企業側に遡上して影響を与え、結果として顧客自身が享受する価値が高まるという相互関係性。
・顧客が自発的に評判を周囲に拡散=価値の伝達を行い、潜在的顧客や新しくユーザーになった顧客に情報を与え関与を高める、まさに「顧客が顧客を育てる」ことになっている。

■実数でのマーケティングが可能
・企業が形成した顧客コミュニティにおいて、企業は潜在的顧客から顧客の反応を実数データで把握でき、その状態を踏まえて次の打ち手を企画し的確に対応できる。

■コミュニティタイプの捉え方の可能性
・コミュニティ型マーケティングは、従来から多い商品ブランドやタレントへの共感でなく、「ライフスタイル」に共感する顧客群をコミュニティとして捉える……新しいコミュニティの形成の概念である。

例えば百貨店は、コミュニティ型マーケティングの適用により活性化される可能性は大いにあるのではないだろうか。

■スペシャルトークセッション

塚田農場によるお客様の心をくすぐるリピート施策
~アプリで鶏を育成!?新ポイントプログラムにより刷新される顧客体験とは~

株式会社エー・ピーホールディングス
塚田農場カンパニー 副社長 兼 マーケティング本部 副本部長
高平 学氏

高校卒業後、日本料理店にて下積み。2010年に入社後、エリアマネージャー、統括料理長の経験を経て、現在は、塚田農場の店舗運営ならびに、営業戦略・マーケティングを担当。

株式会社ヤプリ
エグゼクティブスペシャリスト
伴 大二郎氏

小売業界においてCRMの重要性に着目。一貫してデータ活用の戦略立案やサービス開発に従事した後、2011年にオプト入社。マーケティングコンサルタントを経て、2015年よりマーケティング事業部部長として事業拡大に向けた組織作りに着手。マーケティングマネジメント部やOMO関連部門等々を立ち上げ、統括しながらエグゼクティブスペシャリストという立場から社内外への発信活動を行う。2021年6月、ヤプリに参画。

高平氏のプレゼンテーションに伴氏がコメントをつける形で進行。以下は高平氏のプレゼンの抄録。

居酒屋「塚田農場」を運営するエー・ピーホールディングス(APHD)は、6セグメント、17事業、40業態で飲食事業を中心に食材の生産・加工・流通・販売まで食のあらゆる事業を行っている。生産から販売までを自社で一貫して行う、独自の「生販直結(六次産業)モデル」を展開しており、生産者の顔が見える商品を顧客に提供している。

最近は、APHDグループの全ブランド、顧客と生産者がつながるファンコミュニティサイト【YOSENABE】をオープンした。顧客・スタッフ・生産者と共に食の未来を創造し、40ブランド150店舗のブランドシナジーを発揮し、LTV(ライフタイムバリュー)向上で収益の安定を目指すことを目的としている。

◎塚田農場のマーケティングにおいて大切にしていること

日本一の『鶏屋』になるための塚田農場マーケティングの要諦は、(1) 強みを活かした商品の開発 (2)手触り感のある販促 (3)体感価値を上げるサービス、である。

塚田農場は養鶏から加工・処理まで自社で運営し、第一次産業との強い関わり合いを持ち、鶏に向き合い続けた商品開発力がある。地鶏のメイン商品、野菜丸ごとメニュー、鶏屋の〆・デザートといった強みを生かした商品企画&開発を行っている。また、地鶏やその他素材にこだわり、一次産業と密接しているからこそ打てる販促も大切。鶏屋としての顧客体験価値を上げるため、タッチポイントを多くつくるサービスも心がけている。

顧客体験の積み重ねが顧客のロイヤルカスタマー化につながる。その最終的なプラットフォームが「塚田農場公式アプリ」である。塚田農場のこだわりやストーリーを知ったお客様は、ファンになる可能性が高まる。

◎アプリの大幅リニューアル

パーセプションのギャップ、ターゲットの変化、アクティブユーザーの減少などの課題を克服するために、2024年8月にアプリの大幅リニューアルを行った。ポイントは(1)ライトユーザーからロイヤルまで幅広く楽しめるコンテンツ (2)消費者と生産者が、より近く感じられるようなアプローチ (3)魅力に気づいていないお客様が「美味しい理由」の再発見をできるコンテンツ、である。

ポイントプログラムは、顧客に経験値(Exp)を貯めてもらい、その経験をもとに地鶏を育て、出荷するものに改めた。ポイントは来店や看板メニューの注文、全国スタンプラリーなどで貯まるが、くじやクイズ、コメント閲覧など店外コンテンツも増やし、店舗以外でもいつでもどこでもポイントを獲得できる仕組みにした。顧客との普段からの接点を増やすことを意識している。

◎顧客体験向上には従業員エンゲージメント向上も鍵に

サービスにおいては、独自の「感情移入サイクル」を導入している。社内SNSなどを活用し(例・アルバイトスタッフがアプリの「スタッフモード」でお客様の声を生産者に向けてイキイキと発信)、生産者と店舗が濃密な情報交流をすることで産地と店舗が深い関係を構築。双方の熱量が増幅し、商品の価値向上や社会貢献性の高いサイクルを構築している。

スタッフモードには、今月の意気込み/塚田農場Award/動画で学ぶ/塚田農場豆知識/産地共有ノート、などのコンテンツがある。従来の飲食業にありがちだった“店長”だけに依らない組織へのエンゲージメント向上にアプリは寄与している。

◎今後の展望

お客様が地鶏の部位を詳しく学べるコンテンツ、名物社員・アルバイト紹介、農場のリアルタイム中継など、よりリアリティを感じられるコンテンツなどを増やしていきたいと考えている。マーケティング施策としては、強みである生産・加工・流通・販売の生販直結モデルをさらに強化し、これに消費者をも組み込んで循環させるようにしたい。

居酒屋離れ、飲酒習慣の減退、人材不足、飼料ほか農業生産コストなどの上昇など厳しい環境ではあるが、強みを活かした商品の開発/手触り感のある販促/体感価値を上げるサービスでイノベーションを起こし、この3つの分野で社会的価値をも生んでいきたい。そのために、アプリをさらに活用しコンテンツのブラッシュアップも続けたい。

強みや独自性を持つ企業のストーリーを体現するために、一つのアプリにコンテンツやサービスを集約する、アプリ内にストーリーを完結させて深く知ってもらうのは、ファンを増やしエンゲージメントを高めるための良い施策だと考える。

2024年10月31日(木) 会場対面・オンラインLIVE配信でのハイブリッド開催

source : 文藝春秋 メディア事業局