高校の教室で全裸になった36歳の女教師

「宗教」の主人公は三十六歳の高校教員の女性。ストレスがかかると全裸になる。学級崩壊の最中に教室で服を全部脱いでしまい、今は休職中。自分の癖を知りつつ、つい人にも見せてしまう。全裸になってしまうかわりに、靴を履かずにぺたぺたと裸足でスーパーに行ったり、のぞきに来た男たちにおしっこをかけたり。

「沼」では、わざわざ気味悪く汚染された沼に入る女が描かれる。裸になって汚染水に歩みいる女の、その足指の魅力に惹かれる男。しかし、いざ付き合ってみると、女の作る食事には特有の「臭み」が。ところが、男もまた汚染水の虜となり、ついにはペットボトルに入れてごくごくと……。

 リアリティはないが、どぎついギャグはたっぷり。グロテスクな細部もすごい。しかも、その向こうに厳然たる「リアル」がちらっと見える。セクハラ。いじめ。近親相姦。環境汚染。国家権力の暴走。ファンタジックに加工した現実に、果敢なタックルを試みる作品だ。

よしむらまんいち/1961年、愛媛県生まれ。京都教育大学卒業。2001年「クチュクチュバーン」で文學界新人賞を受賞しデビュー。03年「ハリガネムシ」で芥川賞、16年『臣女』で島清恋愛文学賞。著書に『ボラード病』『ヤイトスエッド』『バースト・ゾーン』など。

あべまさひこ/1966年、神奈川県生まれ。英米文学者。東京大学文学部教授。著書に『史上最悪の英語政策』『文学を〈凝視する〉』など。

前世は兎 (単行本)

吉村 萬壱(著)

集英社
2018年10月26日 発売

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