トランプ政権とは、「勝ち組」政権であり、「ポジティブ思考」政権である。
「敗北を信じない」「いつも勝つことを楽しむ」。トランプが繰り返し語ってきたポジティブ思考は、彼の幼年時代からの牧師、ノーマン・ビンセント・ピールから受け継いだマインドセット(心構え)である。
当選後のフェイスブックで「大きすぎる挑戦などない。手に届かない夢などない」など超ポジティブな国民向けメッセージを連発し、大晦日の記者会見でも「私は大統領就任後、アメリカに“ポジティブなこと”をたくさんもたらす」と明言した。その理想の実現のためにはまず、アメリカ国内が「安全」で、敵に対しては「強く」なければならない。
結婚もせず、ひたすら軍人の道を行くマティス国防長官
トランプ(70歳=以下カッコ内は年齢)国防省、内務省、国土安全保障省のトップに配したのは、「元司令官」たちだ。次期(以下、略)国防長官のジェームズ・マティス(66)は元「中央軍司令官」。内務長官のライアン・ジンキ(55)は元「海軍司令官」。メキシコとの“国境の壁”建設を担当する国土安全保障長官・ジョン・ケリー(66)は中南米を管轄する元「軍司令官」だ。
3人に共通するのは、輝かしい軍功があることだ。別の言い方をすれば、戦闘・戦争で一度も負けたことがない「勝ち組」だ。たとえば、マティス国防長官は「狂犬(マッドドッグ)」という通称を持つ。これは海兵隊で最大の称賛とされている。また、軍位の高い同僚は彼のことを「戦う修道士」と敬意をこめて呼ぶ。生涯一度も結婚をせず、退官後も膨大な戦闘経験やそのカルチャーを体系化する著作を発表するなど、戦士の“道”を求め続けているからだ。
マティスは以前、「誰かを銃口の的にするのが楽しい。はっきりいって私は戦闘が好きなんだ」と言って批判されたが、そのような戦士の心構えこそトランプは重要視する。「俺がいちばん大統領選を楽しんでいる」「みんな、ヒラリーを打ち負かすのは楽しかっただろ!」と演説で国民に話しかけるのがトランプ流のポジティブ発想なのである。
勝ち組カルチャー全開のナバロ国家通商会議議長
新設される「国家通商会議」議長になるカリフォルニア大学教授ピーター・ナバロ(67)もこうした「トランプカルチャー」の一員だ。ナバロの著書『いつも勝ち組!~乱高下する経済で自分の競争優位性を見つける~』(未邦訳)ひとつとっても、タイトルからして「勝ち組」全開だ。読者に対して、いかなる状況でもビジネスで勝つ姿勢を示す本である。
代表作『来たる中国戦争~どう戦い、いかに勝てるか~』(邦題『チャイナ・ウォーズ』)はトランプ氏の対中国政策のバイブルだ。トランプ政権の経済・通商政策の今後が読み解ける報告書「トランプの経済プランを評価する:貿易、規制、エネルギー政策の影響」(未邦訳)を執筆したのもナバロである。
わかりやすい勝ち組 ロス商務長官
同書の共著者で、商務長官に就任するウィルバー・ロス(79)はわかりやすい勝ち組だ。資産25億ドルは主要閣僚のなかでもトップ。投資家として、競争に「敗れた」ビジネスを再び「勝利」に導く、企業再生を得意としている。トランプはそんなロス氏をこれまで脚光を浴びてこなかった国内経済を司る商務省のトップに据え、「ビジネス感覚を政治に取り戻す」と謳う。
通商政策の実務面では、米通商代表部(USTR)代表に弁護士のロバート・ライトハイザー(69)の起用を決めた。中国の“不公平”貿易取引の実際に通じた弁護士として知られる。トランプは「悪い取引がアメリカ人を苦しめないよう、民間から戦ってきた人物」と評す。
プーチン大好き ティラーソン国務長官
タフな交渉は外交の要となるが、外交チームにはどのような面々が揃ったか。
選挙期間中、選対の軍事顧問を務めたマイケル・フリン(58、元国防情報局長)が国家安全保障担当の大統領補佐官に起用された。イスラム教徒に対する発言で物議を醸したトランプだが、その背後にいたのがフリンだ。彼の任務は、「過激なイスラム的テロリズムを打ち負かし(中略)、国内外のアメリカ人の安全を守るための私の側近として働く」(トランプ)こととなる。
こうしたトランプ外交において注目されるのが、レックス・ティラーソン(64)の国務長官就任だ。
世界最大の石油会社エクソンモービルの会長兼CEOである。生え抜き社員から出世し、長期にわたる中東やロシアでの油田開発事業での実績から企業トップに上り詰めた。「氏はアメリカンドリームを体現」「不屈の闘志と豊富な経験があり、地政学を深く理解」とトランプが絶賛する人物だ。
ティラーソンが精通する中東において、膨れ上がった戦費を減らし、それを国内経済、とくにインフラ投資に回すというのがトランプの公約だ。アメリカにとって中東問題とは、石油問題であり、覇権を争うロシアとの問題だとするならば、双方に通じたティラーソンほどその解決の適任者はいない。
習近平を「旧友」と呼ぶブランスタド中国大使
ティラーソンは、そのビジネス経歴からプーチン大統領に近く、友好勲章を授与されるなどしているが、交渉相手国トップとの近さは、トランプ外交の要になる中国大使人事でも同じだ。
中国大使に起用されたのは、習近平国家主席を「旧友」と呼ぶアイオワ州知事テリー・ブランスタド(70)。習主席も旧友として「歓迎」の意を表明している。二人は古く、農業州アイオワで米中の農産物取引の現場で知り合った仲だ。すでに関係が近ければ、(中国に対して晩餐会などせず)「すぐにこれは、ビジネスの話だ」とタフな交渉を開始できる。
メディアの支配者 バノン首席戦略官
ツイッターでの発言が常に話題になるなど、トランプの発信力は歴代の政権にはないほどのものがある。チーム・トランプのメディアチームの面々はどんな人物たちが揃っているのだろうか。
メディア戦略の指南役としてスティーブン・バノン(63)が首席戦略官に就任した。
主要メディアが露骨なクリントン支持を表明した選挙期間中、バノンは選挙対策の最高責任者として勝利に貢献した。自身が経営していた世界最大級のニュースサイト「ブライトバート・ニュース・ネットワーク」を通じて、“クリントンを嫌いにさせる”情報を拡散させただけでなく、理事を務めるシンクタンク「GIA」調査結果を活用し、“親クリントン”のマスコミにさえ“反クリントン”報道をさせざるをえない状況に追い込んでいった。その手腕をかわれて、政権では首席戦略官に就く。
ゴルフ場支配人からツイッター責任者になったダン・スカビノSNS部長
ツイッターで世界を動かすトランプだが、SNS担当の責任者も置く。1976年生まれ、広報担当チーム・ソーシャルメディア部長に指名されたダン・スカビノ(40)だ。
ツイッターをはじめ、そのひとつひとつの発言に世界が注視するトランプのツイッター等を担当する重責を負う。トランプとは、高校時代にゴルフコンペでキャディーを務めて以来の関係だ。大学時代はコミュニケーション論を専攻し、コカ・コーラ勤務などを経て、トランプが経営するゴルフ場の総支配人となった。選挙期間中はソーシャルメディア担当として、18カ月間の遊説に同行し、選挙戦を左右したとも言われるトランプのツイッターやフェイスブックを更新、管理、運用した実績がある。
また、ホワイトハウス報道官にショーン・スパイサー(45)を配した。
元モデルの“美人側近”ヒックス広報担当官
広報担当チームはスカビノのほか、戦略コミュニケーション責任者に元モデルの“美人側近”ホープ・ヒックス(28)を抜擢。いずれも「選挙期間から政権移行まで私のチームの主力メンバー」(トランプ)で、次期大統領が重視する広報チームは側近で固めた。ヒックスはトランプの娘・イヴァンカ(35)のファッションブランドの仕事をしていた際、突然、「共和党予備選挙の広報担当秘書」に抜擢された異色の経歴をもつ。
その他、女性で側近の中からは、選対部長を務めたケリーアン・コンウェー(50)を大統領顧問に指名した。女性専門の世論調査会社「ウーマン・トレンド」の創業者兼会長としての経歴をもつ。選挙期間中、テレビ番組に頻繁に出演し、トランプの政策を擁護した。先述のバノン氏が裏の立役者とすれば、コンウェーはトランプを勝利に導いた表の立役者である。専門を生かし、トランプの女性票獲得の戦略を練ったのも彼女だ。
トランプ「超ポジティブ」政権はこうした多彩な才能の持ち主たちによって作られていく。
写真=getty