「いい洗剤は何か、自分に合うシャンプーは何かを突き詰めたい」
振り返るに、日本においてマルチな才能を発揮する人には、新たな生活の形を人々に提示し、自ら実践しているケースが少なくない。伊丹十三からして、多くの日本人がまだスパゲッティにほとんどなじみのなかった60年代にあって、その食べ方や茹で方をエッセイで説くなど、ライフスタイルについて一家言持っていた。あるいは、第1回伊丹十三賞の受賞者で、コピーライターや作詞家など多才ぶりを示す糸井重里は、80年代にずばり「おいしい生活。」というコピーで一世を風靡し、現在も主宰するウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」で、記事やオリジナルの日用品の販売を通じて生活の楽しみ方を積極的に提言している。
ひるがえって星野源は、生活から逃避するツールがインターネットで簡単に手に入るようになった時代に登場した。同時代の多くの若者がそうであるように、日々の生活から逃避してばかりだった星野が、最初の著書で生活に向き合おうとしたのは象徴的だ。これ以降、彼は、『逃げるは恥だが役に立つ』とその主題歌「恋」で多様な結婚のあり方を肯定するなど、新たなライフスタイルを提示し続けている。最近のインタビューでは、料理をつくるのが好きになったと語っていた。
《楽しいんですよ、最近やり始めたんですけど。だからひとりの生活の楽しみとか、そういうところもしっかりしていきたいなと思います。いい洗剤を突き詰めるとか、自分に合うシャンプーは何かとか(笑)》(※2)
星野源がいま支持を集める理由は、単に多才というだけでなく、こんなふうに地に足をつけながら物をつくり続けているところにもあるのではないだろうか。
※1 『キネマ旬報NEXT』Vol.13
※2 『AERA』2018年12月31日・2019年1月7日号
※3 『AERA』2016年9月26日号
※4 星野源『そして生活はつづく』(文春文庫、2013年)