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楠木建の「仕事のお悩み」一刀両断!

楠木建の「仕事のお悩み」一刀両断!

――「ビバ!エイジング」のセカンドキャリアから「ほぼ日」手帳術まで

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20代の悩み「資格取得のためにやりたくない勉強をするべきか?」

――次のご質問は20代の方からです。「先生がご指摘されている好きなこと、つまり内発的な動機付けにのみ努力することは非常に納得できる反面、自分の中の逃げにつながる可能性もあるのではないでしょうか。実際私は今、証券アナリストの資格を取得しようと考えていますが、何となく興味があるというところに加え、獲得したらキャリア上有利になるという打算的な理由もあります。でも数学と努力が苦手な私としては、その勉強はやる前から苦痛です。こういう場面でも、好き嫌いで判断することは有効なのでしょうか」。

楠木 資格を取るとか勉強してみるというのはあくまでも入口なので、「何となく」という動機でほとんどの人が始めていて、結果的に好きになったらそれはそれでいいことだと思います。ただ「やらなきゃ、やらなきゃ」と思いつつも気が向かないものなら、この先好きになることはたぶんないでしょう。まずは1年やってみて「楽しくないな」と思ったらやめて次のことに取り組む――そう期間を区切ってみたらいいと思います。僕だったらそうします。

©山元茂樹/文藝春秋

40代の質問・「今の学生と20年前の学生に違いはあるのか?」

――40代の方からの質問です。「今の学生と20年前の学生との違い、新入社員と接する方法、新入社員から得ることで相乗効果を得る方法、働き方改革といったものに、今すごくスポットが当たっている気がしますが、どう感じていらっしゃいますか」。

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楠木 僕は「人間はそう簡単には変わらないものだ」という前提を持っています。時代とともに変わることがあったとしても、世代の間のバリエーションよりも、1人1人のバリエーションのほうがはるかに大きいと考えています。昭和的な若者もいっぱいいるでしょうし、昭和生まれでも「あいつ、すっごい令和だな」という人もいる(笑)。もちろん世代的な傾向はあるにせよ、ものごとを世代論で説明するのはあまり意味がないと思っています。

 若い部下の育て方がわからないという話もよく聞きますが、少し叱られたくらいで会社を辞めちゃう人は、昔からいたんですよ。若いからといって打たれ弱いとか、今の若者は人間として集団的に質が違うといったことはないのでは。今は、労働市場の流動性が昔よりはるかに高いので、ちょっと嫌になると「あっちの仕事のほうがいいかな」と辞めていく傾向はありますが、それは労働市場の変化の反映であって、個々人の持っているパーソナリティとはまた別の話だと思います。

若者の不満「新しいことをやろうとすると上司が邪魔をする」

――一方で、若い方からはこんな不満も来ています。「新しいことをやろうとするために、現状維持バイアスを持つ上司が阻害因子になることが多々あります。よい切り抜け方を何か教えていただけないでしょうか」。

楠木 今のご質問をされている方の職業が私企業であるとすれば、話は非常に単純です。「こうやったらもっと儲かりますよ」という話に対して「やめておけ」という人はあまりいませんよね。その新しい企画がいかに成果に結び付くのかということを上司に分からせていくというのが一番早い道です。もしもあなたの直属の上司が現場の成果を上げることを阻害しているようであれば、その人はさらに上の上司に叱責されるんじゃないでしょうか。これが僕の所属している大学みたいな非営利の組織ですとなかなか厄介なんですが、企業の場合だと、目的がはっきりしていてずっとやりやすいと思います。