4月9日、「本屋大賞2019」が発表された。選ばれたのは、瀬尾まいこ『そして、バトンは渡された』。受賞作品について、創作活動についてのご本人の声をたっぷりどうぞ。

 

「あ、こういう気持ちって、前から書きたかったものだったな」

 筆を進めていて、そう気づく瞬間があったという。

ADVERTISEMENT

 瀬尾まいこさんが『そして、バトンは渡された』を執筆していたときのこと。

 書きたかった「こういう気持ち」とは何かといえば、

「愛情を注ぐ相手がいるって本当に幸せだ、というものです。それはこれまで生きてきて、いつも感じていたことなので、その気持ちを小説に反映できたのはうれしかった」

複雑な生い立ちでも「不幸ではない」と言う主人公

 このたび「本屋大賞2019」に輝いた同作は、少々複雑な生い立ちを持つ高校3年生、森宮優子が主人公。彼女には父親が3人に母親が2人いて、姓は水戸、田中、泉ヶ原、森宮と4回も変わった。ともに暮らす相手の組み合わせでいえば、17年間で7度の変遷があった。

 

 多感な10代の時期にそんな経験をすれば、さぞ気持ちが荒れて不安定になるのかと思いきや、優子はまったくそうじゃない。

 高校の担任教師から、つらいことはないか声をかけられても、

困った。全然不幸ではないのだ。

 と、かえって申し訳なく思ってしまうほどのタフネスを誇る。

主人公の強さの秘密

 この強さはどこからくるのか。書いたご本人に問うと、

「たしかに、見ようによっては『かわいそうな子』ともとれるし、ひねくれることだってあるだろうと私も思います。でも優子さんがそうならなかったのは、ひとえにたくさん愛情を受けてきたからでしょう。つねに確固たる愛情を注がれて育てば、根っこの部分がしっかりとして、大崩れしない人になるんじゃないでしょうか」

 

 たしかに、ともに暮らす親がコロコロと変わったとはいえ、それぞれの親は優子を大切に見守ったし、でき得るかぎりのことをしてくれた。おしゃれな義母の梨花はアッと驚く方法を駆使して、優子が欲したピアノを手に入れてくれたし、男手ひとつで優子を育てることになった義父・森宮は、父親らしくあろうと日々研究に研究を重ねる、といった具合に。

 優子は周囲の大人たちから、絶えずたっぷりと愛を受け取っていた。それが芯の強さにつながっているのでは、と瀬尾さんは言う。