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愛情を注ぐのは、自分を必死に満たそうとするより楽しい

 ここで冒頭の瀬尾さんの言葉、「愛情を注ぐ相手がいるって本当に幸せだ」を思い返せば、家族とは愛情を注ぐ相手であり、家庭とは愛情を注ぐ相手のいる場、ということになるだろうか。

「家族は、愛情を注ぐ相手を見つけやすい場所のひとつ、といったところでしょうか。愛情を注ぐ対象は、べつに他のどこで見つけたっていいんだと思います。血縁のある家族でも、血縁のない家族でも、学校や地域活動の場でも。

 

 私は中学校で働いていたこともありますが、生徒という愛情を注ぐ相手がいると、生きるのがシンプルになって楽しいなといつも感じていました。だって、この人たちがいまもこれからも、笑って過ごしてくれたらいいなとだけ考えていればいいんですよ。それは自分の心を満たそうと必死になるよりずっと楽しいし、気持ちが長続きします」

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 そう、瀬尾まいこさんは2002年に『卵の緒』を刊行してデビュー後も、長らく中学校教師の仕事を続けていた。その経験は、『そして、バトンは渡された』での優子の学校生活をはじめ各作品のそこかしこで大いに生かされている。

「じゃあこれ、読んでみよ」

 現在は教師生活を止めて、愛情を注ぐ相手が5歳のひとり娘へと移った。

「娘の無事と笑顔について考えていられるのは、いいものです。そうしていれば、『人生って何?』というような答えの見つからないこと、くよくよ考えなくてよくなりますしね。娘は本屋大賞といってもまだわからないんですが、今回の本のかわいい表紙は気に入ってくれていますね」

 

 今作で本屋大賞を受賞したことを、ご本人はどう受け止めているだろうか。

「まだひたすら、びっくりしているばかりです。ただ、ふだん本を読まない夫が、本屋大賞にノミネートされたと伝えたら、『じゃあこれ、おもしろいんだね、読んでみよ』と。本屋大賞という言葉には、本に手を伸ばしてくださる方の層を格段に広くしてくれる力があるんだと改めて感じました(笑)。

『そして、バトンは渡された』がこれを機に、いっそうみなさんに愛情を注いでいただける作品になったらうれしいです」

 

そして、バトンは渡された

瀬尾まいこ

文藝春秋

2018年2月22日 発売



写真=平松市聖/文藝春秋