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女子の選考方法が合理性を欠いている理由

 一方で、女子の選考基準はどうか。

「女子の場合、優先順位の高い選考項目に、特定のワールドツアーレースなどでの『15位』や『10位』以内というように非常に高い順位を基準とした選考方法が採用されています。しかし、このような順位を基準とした選考方法は合理性を欠いています。なぜなら、そもそも自転車ロードレースは個人競技であると同時に多分にチーム競技の側面を有しているからです」

©Kei Tsuji

 個人競技であり、チーム競技でもあるという一見矛盾した言葉の裏には、自転車競技の特性が絡んでくる。

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「自転車競技ではチームのエース選手を勝たせるために、作戦によりアシスト選手は自らの順位を犠牲にする――そういうことが普通に起こりうる。15位以内という非常に高い順位については、仮に競技力的には達成可能な選手であっても、チーム内の役割によっては断念せざるを得ない場面が多々生じるわけです。

 女子のワールドツアーレースにおけるUCIポイントは、40位以内から発生するので、この順位であればアシスト選手であっても十分に獲得は可能ですが、欧州を舞台としたツアーで、前述の『10位』『15位』のような高順位を獲得するのは実質的にチームのエースか、それに準ずる立場の選手でなければ非常に困難です」

男子と同様の基準ならば、事実上決定のレベル

 レベルの高い欧州ツアーで戦っている與那嶺は、男子と同様にUCIポイントによる選考であれば、すでに代表権を事実上確定させているレベルの実績を積んでいる。しかし、前述のような順位をベースにした選考ではアドバンテージはなく、むしろハイレベルなツアーで戦っているからこそ、消耗を強いられる不利益すら起こりうる。

©Yuki Sakamoto

 自転車専門誌の記者が解説する。

「現在、日本人女子選手でヨーロッパのワールドツアーチームに所属しているのは與那嶺選手のみです。当然、ワールドツアーレースにおけるUCIポイントを獲得できる機会があるのも彼女のみです。しかも與那嶺選手は既に今季のワールドツアーにおいて、Strade Biancheという大会で13位、Trofeo Alfredo Bindaという大会で27位と上位に入っており、仮に男子と同様の選考基準であれば、現時点でも東京五輪代表が事実上決定するレベルの実績です。ところが、現行の基準上では全くのゼロ評価の状態になっています。

 東京五輪の女子自転車ロードレースの代表枠は現状2枠ですが、與那嶺選手の実力は日本女子の中では抜きんでており、現行の選考基準であっても高確率で代表選出されることは間違いない。それでもなお声を上げざるを得なかったところに、問題の根深さがあると思います」