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 だが、この“蜜月関係”も限界が近づいている。曺前長官の不正疑惑で騒いでいた9月初旬。韓国の代表的なリベラル紙「ハンギョレ新聞」の記者たちが、編集局の幹部たちを批判する声明を発表し、幹部たちの退陣を求める「事件」が起きた。声明に名前を載せたのは約30人の若手記者だ。彼らは、当時法務長官候補だった曺氏を批判するコラムが編集局長の指示で出稿後に削除されたとして、「現政権に対する批判報道の封殺だ」と抗議したのだ。

 ハンギョレは反朴槿恵の先鋒で、文政権の誕生に最も貢献したメディアと言っても過言ではない。ハンギョレの創立には当時人権派弁護士として鳴らしていた文在寅大統領も株主として参加し、創刊委員も務めていた。その縁は深い。

安倍晋三首相を大きく取り上げたハンギョレ紙 ©共同通信社

広報秘書官も、駐大阪総領事も元ハンギョレ記者

 そのため、政権発足後には、ハンギョレの幹部記者たちが政権内でも重用された。たとえば、論説委員を務めていた余峴鎬記者は青瓦台国政広報秘書官に就任。論説委員の中でも上位に立つ選任記者を務めていた金宜謙記者は、政権のスポークスマンである青瓦台代弁人になった(その後、不動産投機疑惑で辞任)。論説委員室長を務めた呉泰奎記者は駐大阪韓国総領事館総領事を務めている。

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 中でも、余・国政広報秘書官はハンギョレの記者時代、韓国文化放送(MBC)幹部が朴槿恵政権でポストを得た際に、「権力の過ちを批判すべき言論人が権力の中心へ移ったのは極めて悪い行動だ。MBCの信頼に致命的である」と厳しく批判した人である。

 どの国のメディアにも、時の政権と近い記者はいるだろう。しかし、新聞社内でこのような“反乱”が起きたのは、その関係が度を超えて、現場の記者たちのジャーナリストとしてのプライドを傷つけたからだろう。文政権は、対メディア戦略という側面でも綻びがみえてきた。

 国内状況で追い詰められ、これまで味方だった国内メディアの助けにも限界が見える中で、文政権は来年4月の総選挙までに政権を立て直せるのか。徴用工問題の資産現金化が目前に迫るなど、日韓関係をめぐる重大な政策に判断を下す時期だけに、日本にとっても他人事ではない。