「鳥潟博士の発表された虚構の言葉」長岡の兄による声明書
12月1日付大阪毎日朝刊は、長岡の兄・誠の声明書の内容を掲載している。「今年1月に、弟が鳥潟氏から結婚を申し込まれた時、約束はしていなかったが、某家との縁談があった際でしたので、最初はお断りしましたが、熱望されるままについに婚約が成立し、爾来10カ月の間、弟は令嬢とも交際し、鳥潟家へも出入りしていました」。
新婚初夜、弟から呼ばれた2人の宿泊先の奈良のホテルに駆け付けた兄は「まず私の胸を衝いたのは、常に口数の少ない弟のことさら沈んだ様子と、新婦の結婚前と変わらぬ水のごとき冷静さでした」と述べる。
「私たちはその時、弟の実に真摯な告白を聞いたのです。これを社会に公表することは私としては躊躇するところですが、鳥潟博士の発表された虚構の言葉に対し、愛嬢の将来を思われる骨肉の衷情を察することはできるのですが、ここに公表せねばならぬことはやむを得ないことです」
記事の見出しには「初夜に鳴いた雉」
声明書は、長岡が婚約2年前に「ごく軽度の淋疾に感染しましたが、ただちに治療法を講じて、婚約前には細菌学的にも全治とみなすべき状態にあったのです」とした。鳥潟家側から届いた覚書が「あまりにも予期しなかった」と不満と怒りをのぞかせ、「弟のような静かな性格には、理知よりも人間味、賢明よりも真情のある人を妻にしてやりたいと思います」と悔し紛れの言葉をつづっている。
この記事の見出しは「初夜に鳴いた雉」。記事の最後に謎解きがある。「その当夜、弟がもし不幸にも鳴かざる雉として新婚生活の第一線に入っていたならば、きっと撃たれることはなかったでしょう」。つまり「キジも鳴かずば撃たれまいに」になぞらえているわけだ。
では、最初の記事の「長岡氏のとった行為」とは何だったのか。それを記した鳥潟家からの覚え書きの内容が12月2日付大阪毎日夕刊に載っている。「(長岡が)コンドームを使用することを静子に告げたるをもって、静子は不安の念にかられ……」。密室の秘密が暴露されている。ここまであからさまにされてはと、長岡の兄の気持ちが分からないでもない気がしてくる。