亀井は浜田事務所で働いていた経験を買われ、経営企画本部の渉外部に引っ張られる。野中と敏雅は海外での環境関連の事業に活路を見出そうとしており、亀井はカンボジア、モンゴルなどアジアを飛び回った。
だが三洋電機の財務状況は悪化が続き、2005年12月、ついに第三者割当増資でゴールドマン・サックス証券、大和証券、三井住友銀行の金融3社から3000億円の出資を受けることになる。出資した3社はそれぞれが三洋電機に役員を送り込み、野中と敏雅を辞任に追い込んだ。
クラウドファンディングでダイソンに挑む
後ろ盾を失った亀井は2010年5月、21年勤めた三洋電機を去り小型風力発電を手がけるベンチャー企業に移籍した。ところが、いざ転職してみると、この会社の経営はボロボロで、給料も満足に払えない状況だった。亀井はわずか1年でこの会社を去り、除菌水の取次をする妻の会社に転がり込んだ。亀井と同じ国士舘で女子柔道部の強化選手だった妻の理(さとり)は、保健体育の教師をした後、ディズニーランドやすし屋で働き、海外留学する、というバイタリティに富む女性である。この会社が現在の「シリウス」である。
そして――。
2019年9月には、水洗いクリーナーに続く第二弾「スティック型コードレスクリーナー・スイトル」を発表。9月1日にクラウドファンディングの募集を始めるとわずか3時間で目標金額の50万円を突破し、2週間で目標の7倍弱、336万円が集まった。出資者は200人を超える。クラウドファンディングでこれだけの実績を上げると、銀行から融資も受けやすくなる。今度はコードレスクリーナーで掃除機の巨人、英ダイソンに挑む。
「会社の仕事を360度の丸いケーキに例えると、サラリーマンが任されるのは1度か2度。皿に載せても立たないペラペラです。自分で会社を作ると、ケーキのサイズは小さいが360度、全部、自分でやらなくてはならない。俺にそんなことできるのか、と思いましたが、やってみると案外できるもんですね」
大きな体を揺すりながら人懐こい笑顔を浮かべる亀井には、周囲の人間を巻き込んでいく不思議な力がある。三洋電機から飛び出し、サラリーマンを辞めたことで、亀井の中に眠っていたその力が目を覚ましたのだ。
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「文藝春秋」12月号および「文藝春秋 電子版」に掲載中の連載「令和の開拓者たち 亀井隆平」では、10ページにわたって、元三洋電機社員で、シリウス代表取締役社長・亀井隆平の“逆転人生”を取り上げている。
亀井隆平(シリウス代表取締役社長)