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いまこそ知っておきたい「親日だけど問題国家イラン」をめぐる国際政治のウラとオモテ

2020/01/13

source : 週刊文春デジタル

genre : ニュース, 政治, 社会, 国際

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イランとアメリカの関係が悪化した「核合意」離脱

 現在、イランと米軍が睨み合う状況になっています。大きく事態が動いたのは、1月3日に米軍が前出・ソレイマニ司令官をバグダッドで殺害したからです。また、もともと今のように米国とイランが厳しく対立するようになったのは、オバマ前政権が主導して2015年にイランや関係各国と合意していた「核合意」を、トランプ大統領が2018年に離脱したことが原因です。

米のイラン核合意離脱によって起こったテヘランでの抗議デモ(2018年5月11日) ©AFLO

 こうしたことから、イランをめぐる問題の元凶をトランプ政権だと見なす論調があります。しかし、問題の「元凶」は違います。そこは明確にイランの現体制と言えます。

 たしかに、トランプ大統領が核合意を離脱したこと、あるいはソレイマニ司令官を殺害したことは、イランの大きな反発を呼び、緊張を高めました。そうしたトランプ大統領の決断には当然、賛否両論があります。しかし、それはあくまで「いかにイランを封じるか」という手法の有効性をめぐる問題です。

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 問題のそもそもは、イランの現体制がたとえば「核兵器をこっそり作ろうとしていたこと」や「イラクのシーア派民兵に武器・資金を渡して米軍へのテロを指示していたこと」や「シリアのアサド政権を支援して住民の大虐殺を共謀していたこと」にあります。もっと言えば、1979年のイスラム革命以降、「革命の輸出」を掲げ、一貫して諸外国でテロを仕掛けていたことが問題の根底にあります。つまり、国際社会の課題は、こうした問題国家であるイランの現体制の活動を、これ以上危険な水準に至らせないように如何に封じるかということにあるわけです。

イラクによるミサイル攻撃を受けて「イランに新たな経済制裁を科す」と表明したトランプ大統領(2020年1月8日) ©AFLO

「問題児」を懐柔する欧州、叩き潰そうとするアメリカ

 それが、日本のメディア解説では、トランプ批判のあまり、「悪いのはすべてアメリカで、イランが可哀想」的な論調も少なくありません。仏独など欧州主要国はイランとの核合意維持を主張していますが、それはイランに同情しているからではなく、「とりあえず危険なイランの核武装を応急措置的に止めるのを優先」するからにすぎません。べつに親イランというわけではないのです。

 これは例えれば、ありとあらゆる悪事に手を染めている不良グループに対し、彼らが暴発しないように手なずけるのがいいのか、力で叩き潰したほうがいいのかといった話に似ています。力で叩き潰そうとした場合、暴発して大きな被害が出ることが必至な状況では、そう簡単に実力行使するわけにはいきません。かといって、懐柔策に出ても彼らは単に、それを利用するだけという可能性もあります。

 とくに現実の国際政治では、対応を誤れば多数の死者が出る事態もあり得ます。そこはもちろん議論が必要なところですが、いずれにせよ「米国が手を引けばすべて問題解決」などという話では全然ないわけです。
 

いまこそ知っておきたい「親日だけど問題国家イラン」をめぐる国際政治のウラとオモテ

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