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【ヤクルト】由規はすでに20勝!? 頭の中の「もう一つのペナントレース」

文春野球コラム ペナントレース2017

2017/06/24
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TBSラジオでも文春野球!

 先日、TBSラジオの人気番組『荻上チキ・Session-22』に出演した。「みんなで語ろう!プロ野球2017・6月号」と題して、村瀬秀信コミッショナーを筆頭に、日本ハム・えのきどいちろうさん、巨人・中溝康隆(プロ野球死亡遊戯)さんら、文春野球の面々とともにスタジオで好き勝手にしゃべらせてもらった。すでに、何度かスタジオに呼んでもらったことがあるし、顔なじみばかりとの共演ということで、楽しい時間を過ごすことができた。

TBSラジオ『荻上チキ・Session-22』出演時の様子 ©長谷川晶一

 今回のメインテーマは「交流戦の総括」だった。しかし、ヤクルトは悪夢の交流戦10連敗(1分けを挟む)を喫し、僕の隣に座る巨人・中溝さんは13連敗を喰らっていたために、2人とも心なしか意気消沈した感はあるものの、それでも互いのひいきチームに対する愛情を披瀝した。

 この日の生放送直前に行われたヤクルト対日本ハム戦。ヤクルト打線は3対5とビハインドの8回裏に見事な粘りを見せ、雄平の同点タイムリー、代打・荒木貴裕の決勝3ランホームランで、8対5の劇的勝利。これで3連勝。この試合を神宮球場で見届けてからのTBSラジオ入りだったので、個人的には明るい気分でしゃべっていたつもりだったけれど、放送終了後、「元気がなかったね」と知人に言われてしまったのだった。

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 さて、この番組内でふとしゃべったことが、放送終了後、「すごく共感できる」「そんなこと、考えたこともなかった」「夢の世界に生きるヘンな人(かわいそうな人)」など、今までにない反響をいただくことになった。そこで、番組内では時間足らず、言葉足らずできちんと説明できなかった、「長谷川パラレルスワローズ」について、きちんと説明すべく、文春野球のグラウンドに立つことにしたのだ。

「パラレルスワローズ」とともに過ごした80年代

 番組内で僕は、「昔から現実の野球とは別に、自分の脳内で別のペナントレースを戦ってきた」という趣旨の発言をした。Bクラスが続き、次々と監督が代わる不安定なチーム状況だった80年代。僕は常に、「もう一つのペナントレース」を戦っていた。それはまさに、「長谷川パラレルスワローズ」の激戦の歴史でもあった。

 70年生まれの僕にとって、80年代というのは、ちょうど10歳から19歳までの10代の日々に重なる。自我が芽生え、思春期に差しかかり、少年から青年へとつながるこの時期、僕はいつもヤクルトとともに生きてきた。しかし、チームはふがいない戦いを繰り返し、僕の中には日々、鬱屈たる思いばかりが募っていく。

 そこで、僕が考えたのが「よかった探し」「ルール変更」「歴史改ざん」という手段だった。いや、「考えた」のではなく、自我の崩壊を防ぐべく、無意識の自己防衛本能が「生み出した」のだ。当時からメモ魔で、常に手帳を持ち歩き、気づいたことをメモし、一日の終わりには日記をつけていた。その中で、僕が始めたのがその日の「勝敗や成績」を主題にするのではなく、その日の「よかったこと」をメモすることだった。

 当初は、「(今日は巨人に負けたけど)池山隆寛が豪快なホームランを打った」とか、「(今日はクロマティに逆転弾を打たれたけど)尾花高夫が6回までを1失点に抑えた」とか、「(完封負けを喫したけれど)今日は関根潤三監督の笑顔が見られてよかった」とか、勝敗を度外視した「よかった探し」をして、心の平安を保っていたのである。

 それが昂じてくると、次のステップとして「野球が7イニング制ならば今日は勝っていた」とか、たまに7連勝などしたときには、「ペナントレースが10試合制ならば、堂々の優勝だ」とか、次第にルールを捻じ曲げるようになっていく。

 しかし、この私的慰撫は次第にエスカレートしていく。この程度の慰めでは追いつかないほど、現実のヤクルトはふがいない戦いばかりを続けていたからである。中学時代のメモ帳が手元にないので、記憶を頼りに一例を挙げてみよう。僕は、85年シーズンオフにこんな文章を書いた(ような気がする)。

 今シーズンほど苦しいペナントレースはなかった。プロ2年目高野光の才能の開花、エース・尾花高夫の円熟味あふれるピッチングで、シーズン序盤は独走を続けていたヤクルトだったが、巨大戦力を有する巨人の実力は本物だった。オールスター以降の追い上げは、さすが球界の盟主を自任するだけあり、江川卓、西本聖、加藤初の三本柱は盤石だった。しかし、チームが苦境にあるときこそベテランが存在感を発揮する。5月、7月、そして9月の巨人戦で、お得意様の江川を打ち崩した若松勉がシーズンMVPに輝いたのは当然のことだった。

 さらに、バース、掛布雅之、岡田彰布、真弓明信ら超強力打線を有する阪神とも最後までデッドヒートを演じた。乱打戦ならヤクルトも負けてはいない。クリス・スミス、ボビー・マルカーノの両外国人は、甲子園球場にめっぽう強く、ビジターとなると信じられないほど打ちまくった。特に天王山9月25日の第23回戦で、スミスが放った超特大逆転満塁ホームランは追いすがる阪神に引導を渡す一発となった。

 今季のヤクルトは、17勝7敗で10個の貯金を作った尾花高夫を筆頭に、荒木大輔、宮本賢治、梶間健一と4人の二ケタ投手が誕生。引退が惜しまれる松岡弘も最後の力を振り絞って、通算200勝を置き土産に有終の美を飾った。

 打撃陣では新人・広沢克己の大活躍が光った。惜しくも30本の大台には届かなかったものの、新人で29本塁打は立派。大杉勝男の背番号《8》の後継者として、さらなる飛躍が期待できる。歴史に残る激戦を制した85年のスワローズ。日本シリーズで西武に対して4勝2敗と完勝したのは当然のことだった。

 ……以上、完全なフィクションである。10代の頃は、自作自演のこんなでっち上げ文章に癒されていたのである。今となっては、「クリスって誰だよ!」と言いたくなる。

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