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政府への忖度を期待できる黒川氏の総長就任を望んだ?

 近年の検事総長は、おおむね2年で交代してきており、18年7月に検事総長になった稲田氏も、さすがに黒川氏の定年延長の日の前には後任に道を譲るとみられている。つまり、今回の閣議決定は黒川新総長の誕生を意味するといわれる由縁だ。

 元より、検事総長を任命するのは内閣だ。しかし、これまで検事総長人事は前任の検事総長が決めることが慣例となってきており、今回の閣議決定はそれを妨げる格好になったといっていい。法的には、国家公務員法が「任命権者は、定年に達した職員が退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、定年退職日の翌日から起算して1年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる」としており、内閣はこの規定を根拠としたとみられる。

 さらに、関係者によると「昨年末にカルロス・ゴーン被告が国外逃亡しており、東京高検検事長として捜査指揮に関与した黒川氏が引き続き、ゴーン事件の落とし前を付ける」との具体的な理屈もあるようだが(名古屋高検検事長の林氏はゴーン事件の捜査に関与していない)、「安倍政権が政府への忖度を期待できる黒川氏の総長就任を望んだ」ことが背景にあるとの分析もある。

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ゴーン氏への捜査にも影響が? ©時事通信社

「IR汚職事件も収束に向かうだろう」

 今回の異例の人事に、法曹界では多くの派生した見立てが飛び交う。「政権に近い黒川氏が総長になれば、自民党が主な標的のIR汚職事件も収束に向かうだろう」「検察が事実上、安倍政権の支配下に入ったようなものだ」といった〝悪評〟もあるが、「黒川氏が政権を利用して検察組織のプレゼンスを高めるかもしれない」とその腕力に期待する向きもある。

 しかし、気になるのは、法曹界の人事に対する内閣の関与の度合いがますます強まっていることだ。2017年、内閣が最高裁裁判官に法学者で弁護士の山口厚氏の就任を決めた閣議決定でも、法曹界では「政府提出法案に反対する日本弁護士連合会の推薦弁護士を認めず、弁護士と言っても事実上の『学者枠』の山口氏を選んだ。内閣が日弁連の推薦弁護士をそのまま採用してきたこれまでの慣習が破られ、最高裁裁判官の『弁護士枠』が1人分減らされた」との懲戒的な見方が広がった。

 法曹界の独立、ひいては、検察組織の独立はどうなるのか。東京地検特捜部は今後、政権中枢や与党議員の疑惑をつかんでも捜査しにくくなるのか。あるいは、検察組織は法曹三者の中で存在感を強めるのか。このまま黒川氏が新検事総長になった場合、手腕と動向は大いに注目されよう。