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テラスハウス問題でSNS規制が浮上 法改正で「権力に有利になる」は本当か?

弁護士が解説

2020/05/28

genre : ニュース, 社会

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 その負担に耐えて発信者開示に乗り出した被害者も、プロバイダ責任制限法4条1項の定める厳しい要件(被害者の「権利が侵害されたことが明らか」であること)をクリアしなければなりません。幅広い誹謗中傷について開示が認められるわけではないのです。 

 誹謗中傷に苦しみ、一縷の望みを託して弁護士のもとを訪れた被害者に対して、見込みの厳しさについての説明を行わざるを得ないのは、弁護士としてとてもやるせないものです。しかし私が体験したいくつかの相談では、半数以上の方が費用面、条件面から依頼を断念する結果になっています。実際に開示請求の手続きを最後までやりきれるのは、資金面で余裕のある企業や裕福な方が多いというのが実情です。 

 これが私の知る発信者情報開示の「ハードルの高さ」です。 

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 こうした状況について多くの専門家たちが法の改正を求めて運動を続けてきました。 

 実に2011年から日本弁護士連合会が訴え続けてきた内容をご覧になれば、それらの問題の多くがこの10年間、ほぼ解決されず、現在に持ち越されていることは分かると思います。 

「厳罰化が必要」に反対する理由

 これに対して、開示の手続きは、あくまで発信者が誰であるかを決めるだけではないか、発信者たる加害者に今までより重い責任あるいは厳罰をもって臨むことこそ抑止になるのではないか、とする意見もインターネット上では見受けられます。 

 木村さんの受けた誹謗中傷は、単なる一人の人間による悪口ではありません。多数の人間による「殺到型」と言われる誹謗中傷であり、インターネットを介した「いじめ」という表現が分りやすいかもしれません。 

 攻撃を煽ったのではないかといわれる番組制作の姿勢も問題とすべきですが、それが個々の攻撃者を正当化するわけではありません。

 その加害者の多くは、自分は絶対安全地帯にいると甘く考えて、利害関係もない有名人への「ノーリスクでの攻撃」に参加していると思われます。その手の人間に、自分の名前が晒され、責任を負うというリスクを分かってなお誹謗中傷を続けるような根性があるとは思えません。 

 開示請求のハードルが下がり、加害者の特定が現実的なものになれば、それが抑止力となって、現在以上に重い罪を設定しなくとも、「殺到型」誹謗中傷の被害はかなり減らせるのではないかと私は考えます。 

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 重要なのは加害者を罰することではなく被害者を守ることです。「被害者が負った開示手続きの費用負担について、きっちりと加害者に負担させる」というような被害者に資する部分を除き、加害者への罰をいたずらに加重することには賛成できません。 

 加えて、厳罰を主張する人たちには別の問題があります。罰則について意見を持つのは自由ですが、本件のように話題になった事件について「罰せよ」という意見が殺到し、それ自体が処刑の様相を呈するなら、もはやそれは意見ではなくてリンチです。そして寄ってたかって加害者への厳罰を主張する人たちの姿は、人を罰する自分に酔い、木村さんを自殺に追い込んだ加害者たちの姿とむしろ重なり合います。