恋愛リアリティー番組「テラスハウス」に出演中だった人気女子プロレスラーの木村花さん(享年22)の死の衝撃は、政治をも巻き込んだ社会問題に発展しつつある。

 死の原因がSNSによる誹謗中傷を苦にしたものであると報道されたことを受けて、高市早苗総務大臣はインターネット上の発信者の特定を容易にするため、制度改正を検討する姿勢を示した。

 一方で、SNS規制については、表現の自由を侵害するのでは、と危惧する声もある。SNS規制にデメリットはないのか。リスクマネジメントに詳しい田畑淳弁護士に聞いた。 

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現行の開示請求制度では数十万円の弁護費用がかかる 

 発信者(加害者)の特定を容易にすれば、本当に次の被害者を減らすことができるのでしょうか。結論から申し上げるなら、私は、本当に発信者の特定が容易になれば、被害者を減らすことができると考えます。 

 その理由の一つは、現在の発信者情報開示の制度が複雑でハードルが高すぎる点にあります。 

 例えば、あなたがSNSで匿名の人間に誹謗中傷されたとします。誹謗中傷した人間=発信者は、名前も住所も分からない存在です。それが誰なのかを特定(発信者情報開示)して、責任を追及していく手続きは、大きく3つの段階に分かれています。 

 ①まず最初に、「発信者情報開示請求の仮処分」をSNSの運営会社=コンテンツプロバイダに対して行う必要があります。この仮処分が認められると、SNS運営会社から誹謗中傷の書き込みがなされたIPアドレスが開示されることになります。 

②次に、IPアドレスから加害者が利用した携帯電話キャリアなどの回線事業者が特定され、今度はこの回線事業者に「発信者情報(住所や氏名等)の開示請求の訴訟」を提起することになります。勝訴すると、原告には回線事業者より発信者情報が開示され、発信者(加害者)がどこの誰か特定されることになります。 

③そして第3段階になって、ようやく被害者であるあなたは②で判明した発信者(加害者)に対して、名誉棄損などによる損害賠償請求を行うことができるわけです。 

 加害者が任意に賠償をしないケースでは、都合3回の全く別の手続きを裁判所で行わねばならず、これらの手間の負担は数十万円の安からぬ弁護費用として被害者に跳ね返ります。 

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相談に訪れた被害者の半数以上は開示を断念 

 それだけではありません。上記の各手続きにおいても、様々な難関が立ちはだかります。 

 一例をあげるなら、①の仮処分手続きでは、海外SNS運営会社の資格証明、つまり日本でいう法人登記のような書類が必要です。しかし、これを手に入れることも慣れない人には容易ではなく、登記書類を入手するためだけでも弁護士費用以外に5万円程度が必要であったりします。