ファンダム経由の政治活動は「ファン・アクティビズム」とも呼ばれる。今回のBLM運動は、その「オタク」的なパワーを世界中に知らしめたと言っていい。
さまざまな国籍やルーツ、年齢の人が集うK-POPコミュニティでは、言語の壁を超えて情報を互いにシェアし、アーティストの売上や注目度を上げるための「応援の仕方」を伝授する文化が育まれている。これらの統率力は、社会運動においても大いに役立つものだ。
妨害された側はたまったものではなかっただろうが、BLM支持派が多いアメリカのリベラルなマスメディアは、K-POPファンダムの「乗っ取り」作戦を絶賛していった。大手ニュース番組『グッド・モーニング・アメリカ』に至っては「正義の戦い」と称した特集まで打っている。
右派が人気キャラクターを乗っ取った「カエルのぺぺ」事件
しかしながら、政治的なオンライン人海戦術を行うのは、何もリベラル側だけではない。過去にはリベラルメディアがこぞって批判的に報道した「乗っ取り」事件もあった。有名なものだと、2015年ごろネットを騒がせた「カエルのぺぺ」事件がある。
ぺぺとは、マット・フュリーによる漫画『ボーイズ・クラブ』のキャラクターで、表情豊かな目の大きいカエルだった。悲しみや喜びをあらわす絵面が特徴的だったためインターネット・ミームとして人気を博していたのだが、だんだんとオルタナ右翼や白人ナショナリストが政治的アピールに用いるアイコンとして定着していき、現実のデモや政治集会にも登場するようになっていった。
2015年にはトランプ現大統領もこのカエルを模した画像をリツイートしている。翌年には、米国のユダヤ団体「名誉毀損防止同盟」が「ヘイトシンボル」として「カエルのぺぺ」を登録するまでに至った。
このことに、リベラルな民主党支持者の作者フュリーが激怒。「作者の私からすればぺぺとは(憎悪ではなく)愛だ」と語った彼は、キャラクターを取り戻すため、ファンとともに「#SavePepe」キャンペーンを展開してぺぺを主人公とした反トランプ漫画も描いていったが、結局、膨大な数の反動右派ネット勢力に敵わず終わる。そして、トランプ政権が始まった2017年、フュリーは漫画のなかで「カエルのぺぺ」を公式に殺してしまった。
「ファン・アクティビズム」の元祖は『ハリー・ポッター』だが……
「ファン・アクティビズム」の代表的な例とされるのが、J・K・ローリングが生み出した小説『ハリー・ポッター』シリーズのファンによる非営利団体「Harry Potter Alliance」である。2005年、同シリーズの精神に基づいて発足されたこのNPOは、35カ国に支部をかまえながらフェアトレードや紛争問題、経済や人種、環境の問題やセクシャル・マイノリティへの差別解消のための活動をつづけている。
ポップカルチャーの魅力を活かして社会運動を広める同団体のモットーは「ファンをヒーローにする」。まさに、フィクションの力を反映させた高潔なファン活動だ。
しかしながら、2020年現在、「Harry Potter Alliance」の運営は原作者J・K・ローリングに対して公然と批判的な立場をとっている。大きな理由は、ここ数年議論を呼んでいる、トランスジェンダーにまつわる彼女の言動だ。