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負け続けた“天才”…ジャルジャルが「キングオブコント制覇」に13年もかかった理由

2020/09/28
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「完全に今回は獲りに来てますね」

 1つのネタの中で同じ流れを何度も繰り返すのは、ジャルジャルが得意とするパターンだ。このネタでは、同じ流れの中で事態がどんどん発展していく。そのため、雪原で雪玉を転がして大きくしていくように、ネタが進むにつれてどんどん笑いが大きくなっていく。

 社長が何度も歌を止めるなと怒るところが笑いのポイントなのだが、見ているうちにそれ以外の部分でもずっと笑いがこみ上げてくるような感覚に陥る。歌が効果的に用いられているため、見る人がネタの世界観に自然に引き込まれていく。

審査員を務めた松本人志 ©文藝春秋

 この1本目のネタを評して、審査員の1人である松本人志は「ジャルジャルは完全に今回は獲りに来てますね。マニアックすぎるネタをちょっと落としてきて。割と今回わかりやすくて面白いのをちゃんと持ってきたね」とコメントした。

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 これまでのジャルジャルのネタの中には、同じ流れを繰り返すだけで終わるようなものもあった。2010年の『キングオブコント』決勝で披露した「おばはん」とひたすら連呼するネタなどが代表例だ。その手のネタは、あえて1つのフレーズで押し切っているところが玄人ウケする要素ではあるのだが、大衆ウケという意味ではやや物足りないところがあった。

“ありえないけどリアル”だった2本目

 今回のジャルジャルはその弱点を自ら克服するようなネタを演じた。後半に進むにつれて右肩上がりに盛り上がっていく仕掛けを作ったのだ。それによって高得点を獲得して、決勝ファーストステージを1位で通過した。

 彼らが2本目に披露したのは「空き巣タンバリン」。先輩・後輩の2人組の空き巣がオフィスに忍び込んで金庫を開けようとするのだが、後輩の方がなぜかタンバリンを持ってきている。絶対に物音を立ててはいけない状況で、その後輩は何度もタンバリンを鳴らしてしまう。

【Twitter】「キングオブコント」公式アカウントのツイート
 

「静かにしなければいけない状況で大きな音を出してしまう」という笑いの取り方自体は、一昔前のコントでもありそうなほどオーソドックスなものだ。だが、ジャルジャルは「ありえないほど何度も鳴らす」という方向に極端に振り切ることで、自分たちの持ち味を出した。

 そのありえない状況にリアリティを与えているのが、頼りない後輩を演じる福徳の演技の上手さだ。この後輩はふざけて大きい音を出しているわけではなく、あくまでもうっかり音を出してしまっている。だから、音が出て先輩に注意されたときに申し訳なさそうな引きつった顔を浮かべる。そのキャラクターを表情ひとつで見事に表現していた。