3年以上放置された被害者も
じつは、今回の不正引き出しは2017年夏から起き始め、藤本さんのような被害は昨年までの判明分だけで180件を超える。このうち補償すべきなのに補償されずにいた被害者は、少なくとも80人程度で、長い人は3年以上も放置されたという。
2017年来の被害は、主要な経営幹部も参加するゆうちょ銀行のコンプライアンス委員会に加え、親会社の日本郵政にも報告されていた。
では、銀行に預けたお金を理不尽に奪われた顧客がいることを認識した経営幹部はどんな報告を受け、どんな対応を指示したのか。顧客にとっては無関係の決済事業者に対応を丸投げし、長く補償されず連絡もしない例が数多くあることを、どれだけの人が知っていたのか。そうした顧客がお金を奪われたまま放置されている間、どんな思いで何をしていたのか。
これこそが原因を解明して改善策を講じるべき「核心」であり、ゆうちょ銀行の「リスク感度が弱かった」「補償ルールが未整備だった」といった釈明で済まされるはずがない。
目の前の被害者を助けようともしない
保険の不正販売が大量発覚したかんぽ生命や日本郵便も、同じ問題を抱えている。
2018年4月のNHK番組で、郵便局員にだまされたという高齢客の悲痛な声が大々的に報じられた。それを郵政経営陣は「放送内容は事実だが、ごく一部の悪質事例」と片付けるだけで、被害者を助けるどころか話を聞き直すことさえしなかった。当の被害者に損金を返すのは、放送から2年半以上が過ぎた今年11月のことだ。
不正が横行する実態は多くの郵便局員らが認識し、その情報は支社や内部通報窓口にも届いた。かんぽと日本郵便の担当幹部も、不正と疑われる契約累計が毎月何千件もあるのを共有しながら、眼前の被害者を助けようとしないばかりか、問題発覚後は「まさか不正があるとは」としらを切り、問題の核心部分にふたをかぶせてしまった。
報道された被害事例を「事実」と認めながら、そこにいる被害者を助けようともしない。常識では想像もつかないような行動がなぜ平気で繰り返されるのか。
特殊な歴史や企業体質にも由来する「根本原因」が特定されなければ、適切な薬が処方されることはなく、郵政グループの病気が治って再建するということも望みようがない。
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詳しくは「文藝春秋」12月号および「文藝春秋 電子版」掲載のレポート「郵政グループ 腐った『だんご3兄弟』」をお読みください。
郵政グループ 腐った「だんご3兄弟」