4月25日、衆議院北海道2区と参議院長野選挙区の補欠選挙、参議院広島選挙区の再選挙が行なわれ、3つとも野党の候補が勝利しました。注目を集めたのは広島の選挙の勝敗ですが、私は以前から、自民党が北海道2区で候補者擁立を見送ったことが、将来に禍根を残すと指摘していました

 北海道2区は収賄罪で起訴され辞職した吉川貴盛元農水相の補選で、党内には候補者を立てるべきだという声が圧倒的でした。「政治とカネ」の問題が響いて立てられないというのが、執行部が擁立を見送った表向きの理由でしたが、自身の選挙をめぐって公職選挙法違反で有罪が確定した河井案里元参院議員が失職したために再選挙となった広島には候補者を立てたのですから、整合性が問われる苦しい理屈だったと言えます。

後藤謙次氏 ©文藝春秋

 この擁立見送りには、こんな背景があったと永田町では囁かれています。吉川氏には、次の衆院選挙で息子を含む自身の系列の候補を擁立したいという強い希望があった。しかし、今回の補選で、候補を立ててしまうと、その目論見が崩れてしまう。そこで、当選同期の菅義偉首相や山口泰明選対委員長が阿吽の呼吸で、候補者擁立を見送りを決めたというわけです。

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「執行部は本気で勝つための戦略を練っているのか」という不満

 小選挙区制度のもとでは、一度明け渡した議席を取り戻すには、大変な労力が必要です。自民党には2016年4月実施の衆議院京都3区補欠選挙で、候補者を立てずに民進党公認候補(当時)の泉健太氏に議席を明け渡したという苦い経験があります。泉氏は2017年の衆院選でも自民党公認候補を破り、連続当選。今や立憲民主党の政調会長です。京都3区は完全に野党の牙城になってしまいました。

 もし仮に次の選挙で吉川系の候補が北海道2区に立ったとしても、大苦戦を強いられるのは必至です。それなのに、今回の選挙を「不戦敗」で済ませてしまった。「党執行部は秋までに行なわれる衆院選に向けて、本気で勝つための戦略を練っているのか」という不満の声が出るのもある意味では当然と言えます。党全体の士気を保つという面では、今回の見送りは非常に問題のある決断となってしまったのです。