ご当地アイスが果たす大きな役割
こうして地元で長年にわたって店頭の注目を集め、その味でファンに愛されてきた「ブラックモンブラン」。誕生から50年以上たった今も、九州では抜群の知名度を誇る。
ご当地アイスの魅力は、地域の歴史・継続性を感じられる点だ。これは地域限定のお菓子やパンなどもそうだが、昔からその地域で変わらずにあるものは、老若男女問わず認識され親しまれている。
そのため、たとえその土地から離れてしまっても、その地域の人と再会した際、地域限定の食べ物はしばしば盛り上がる話題として活躍する。その意味で、ご当地アイスは地域の繋がりを保つ役割もある。いいかえれば、コミュニケーションを生み出すパワーコンテンツなのだ。
今後もそのような役割も担うためには、世代を問わず認識され続ける必要がある。そのため、多くの製造元はトレンドに左右されないよう、味やパッケージデザインをなるべく変えずに地元の味を守ろうとしており、利益以上にご当地アイスの持つ地域のつながりを維持する役割にこだわっている。私自身、そこにご当地アイスの魅力や必要性があると思っている。
関東上陸の先に見据えることは…
一方で、竹下製菓は、今までに「ブラックモンブラン」を超える既存ブランドや新ブランドが未だに育っていない。アイス業界全体に目を向けても、飲むアイスとして誕生したロッテ「クーリッシュ」(2003年)、バニラアイスとチョコが口の中でとろけ合うのが特徴の森永乳業「パルム」(2005年)以降、エポックメイキングなブランドが育っていない。
また他方で、首都圏での「ブラックモンブラン」の知名度はまだまだだ。
私が知る限りでは、サミット、ヤオコー、ライフなどのスーパーや専門店などで購入できるが、皮肉にも躍進のきっかけとなったコンビニエンス・ストアでは、九州以上の販路開拓ができていなかった。
今回の「ブラックモンブラン」の関東本格進出は、そんな状況を変える可能性があると思っている。注目すべきは、昨年10月に買収した埼玉県・幸手のアイス製造会社スカイフーズの存在だ。
スカイフーズは、コンビニエンス・ストアや大手アイスメーカーのオリジナルアイスの製造を主にしており、小粒の一口アイスの製造設備があるのが強み。日本で小粒のアイスを製造できる設備は、私が知る限り、森永乳業の関連会社と、このスカイフーズしか今のところ存在していない。製造拠点を増やし災害等のリスクを分散させる目的のあるこの買収が、業界内で高い注目をうけているのは、こうした背景があるからだろう。
商品開発において、大手企業が真似できないことをあえて行って差別化してきた竹下製菓。片方では「ブラックモンブラン」という長年作り続けてきたアイスを持ち、もう片方ではこの強みを生かしながら、買収を足がかりに商品に大きな革新を起こす可能性がある。
今後、販路を拡大していく中で、新しい刺激を受けた竹下製菓が「ブラックモンブラン」を軸に自社ブランドや業界全体に新しい風穴を開けていく……。そんな日は、案外近いかもしれない。
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写真=筆者撮影