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「二度と会わない」ことを条件に示談

 それでも、証拠が薄いと判断されたのか、検察官から示談を勧められた。A子さんの一番の望みは「二度と実父と会わない」こと。起訴されて刑事事件になったとしても、「二度と会わない」という判決は、法律上出せない。母親は、A子さんの希望が一番大事だと考え、「二度と会わない」ことを条件に示談に応じた。その結果、不起訴処分となった。

 現在A子さんは高校生であるが、進学先を選択する際、「女子校」であることを最重視した。高校側にも事情を説明して、男性教師との接触を最低限にするよう配慮してもらっている。まだ高校生なのに、「結婚はしない」「子どもを産むつもりはない」「恋愛も無理」と話しているという。

「暴行・脅迫」はどう判断される? 現行法の問題点

 現在の刑法では、13歳未満の者に対しては、暴行・脅迫がなくても強制性交等罪・強制わいせつ罪が成立する。つまり、12歳までの子に対しては、同意能力がないので、性交やわいせつ行為がなされれば罪に問われる。

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 一方で、被害者が13歳であれば、大人と同様に「反抗を著しく困難にさせる程度の暴行・脅迫」がなければ刑法の罪に問われない(別途、児童福祉法や青少年保護育成条例違反に該当する場合はあるが、前者は成立範囲が狭く、後者は刑が軽すぎて実態に合っていないので、本稿では考慮しない)。

 その際、「反抗を著しく困難にさせる程度の暴行・脅迫」があったかどうかの具体的な判断基準として、判例は「被害者の年令、性別、素行、経歴等やそれがなされた時間、場所の四囲の環境その他具体的事情と相伴って、被害者の抵抗を不能にし又はこれを著しく困難ならしめるもの」としている。つまり、「暴行・脅迫」の判断にあたり、「被害者の年齢」も考慮され、年齢が低いことは「反抗を著しく困難にされた」と認定されやすい要素ではある。しかし、数多くの要素のうちのひとつに過ぎないし、実務的にも特段に重視されているという実感はない。

 実際、A子さんは13歳なので同意能力があるとされ、「暴行・脅迫がない」ことを理由に、強制わいせつ罪には問えなかったのだ。

 同様の状況に置かれた時、突然のことで何をされているのか分からず、怖くて逃げることもできず、体が固まる「フリーズ(凍り付き)」を起こしてしまうことは、科学的・実証的に明らかになっている。成人女性にもよくみられる症状であり、16歳未満の子が成人からの性的行為から逃れる言動ができるとは到底思われない。しかし、現行法では、暴行・脅迫がないと、加害者を刑法犯には問えない。