大型灰皿を何度も振り下ろして切断
上場企業から違法な資金を引き出していたために暴力団と同様に反社会的勢力の一員として、かつて警察当局から捜査対象とされてきた「総会屋」の一部にも同じように指を詰める習慣があった。
国内最大の総会屋グループとして知られた「論談同友会」の中堅クラスの元幹部が、自らの体験を述懐する。
「ある晩に自宅にいたところ、論談(同友会)の幹部をしていた先輩から電話があって、『すぐにうちに来てくれ』ということだった。先輩の自宅に駆け付けると居間に通されて、『会長にわびを入れなければならなくなった。今から指を詰めるから見届けてくれ』とのことだった。
事情を聞いたところ、『指を詰めるまでの不始末ではないのではないか』と思いとどまるよう説得したが、『どうしても指を詰める』と言って聞き入れてもらえなかった」
その後、先輩は出刃包丁と直径30センチ以上はある円型の大きなガラス製灰皿を持ち出してきたという。先輩はテーブルの上に置いた左手の指の先端に、右手で持った出刃包丁を当てた。
「そこで、『灰皿で上から包丁をたたけ』と指示された。仕方なくたたいたが、なかなか指を切断できなかった。さらに『もっとやれ』と強く言われたため、何度もやったがダメだった。
しばらくすると、ガラス製の灰皿をたたきつける大きな音に気付いた奥さんが出てきて、『何しているの。止めて!』と叫んだが、『続けろ』と先輩に言われたので仕方なくやった。何度目かでようやく指が切り離された。この人は総会屋になる前はヤクザをやっていた。だからトラブルがあれば指を切るのは当然と考えていた。だが、自分としては今でも思い出したくない出来事だ」
論談同友会会長だった正木龍樹(2016年死去)は上京して総会屋稼業を始める前までは、出身地の広島で地元の暴力団組員として活動しており、その際の不始末のために両手の小指を詰めていた。昭和から平成の時代の活動最盛期のころの論談同友会は、指定暴力団住吉会の有力2次団体と友好関係にあり、総会屋と称していても暴力団的な気風は色濃かったのが実態だった。