ここしばらく、ネットCMでの、家庭や社会における男女の役割の描き方、あるいはセクシャリティの表現が賛否両論を巻き起こすケースがあいついでいる。その原点をさかのぼれば、1975年に放送されたハウス食品工業のインスタントラーメンのテレビCMに対する女性団体の抗議行動に行きつくのではないだろうか。
このとき問題とされたのは、同年8月末から放送されていた「ハウスシャンメンしょうゆ味」のCMで用いられた「私作る人、ボク食べる人」という表現だった。これに対し、9月30日には、参院議員の市川房枝ら約500人が参加する「国際婦人年をきっかけとして行動を起こす女たちの会」が、「食事づくりはいつも女性の仕事という印象を与え、男女の役割分担を固定化してしまうものだ」と抗議。「1ヵ月以内に放送を中止しない場合には不買運動も含めた対抗手段を検討する」と通告した。ここから議論が社会に広がるなか、ハウス食品側は検討を進め、10月27日、「社会的影響なども無視できない」として放送中止を決めた。いまから42年前のきょうのできごとである。中止の理由について、同社の東京本部広報室は「消費者などからの反応は、あのままでいい、という声が圧倒的に多かったが、少数の声でも、謙虚に耳を傾けていくのは当然」などと説明した(『朝日新聞』1975年10月28日付)。
ハウス食品側のコメントからもうかがえるように、このときの女性団体の主張と行動は、社会から強い共感をもって迎えられたわけではなく、むしろ冷ややかな反応が多かった。CMの中止決定に際しては、女性の識者からも「差別CM、というのも一つの見方かもしれないが、茶の間の大多数の主婦は、そんなものに神経をいらだたせてはいない。そんな感覚では、男女差別の本当のポイントからはずれてしまう」との意見が出た(『朝日新聞』同上)。他方、欧米各国ではこの時期、市民によるテレビ・ラジオへの「アクセス(接近)権」の行使が活発化し、アメリカでは、抗議を受けた放送局が「婦人や少数民族を対象とした番組を制作する」ことを確約するなど、実績も多く生まれていた(『朝日新聞』1975年10月11日付)。こうした時代の趨勢に、日本が乗り遅れていたことは否めないだろう。
CMにおける社会的・文化的な性差(ジェンダー)の表現に対しては、近年、国際的に、より公平を求める方向へと動いているようだ。今年7月には、イギリス広告基準協議会(ASA)が、性別にもとづくステレオタイプ(固定観念)を助長するような広告表現を禁止すると発表している。