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『宇宙からの帰還』を読んで宇宙飛行士に

 特集3本目で佐藤優氏(作家・元外務省主任分析官)は、立花さんとの対談本『ぼくらの頭脳の鍛え方』(文春新書)がどのように出来上がったかを明かしている。私は実は本書の構成担当者として二人の対談に同席した。したがって佐藤さんが書かれていることは私の思い出でもある。

 二人はともにキリスト教徒の家庭に育ち、立花さんは20歳のころ、佐藤さんは15歳のころにヨーロッパを長期旅行している。立花さんは田中角栄研究で、佐藤さんは鈴木宗男事件で、政治の表舞台に立った経験もある。ずば抜けた読書量も持つ。これだけ共通点があれば、きっと意気投合するにちがいないと思ったら、佐藤氏も書かれているように、しばしば対立した。だからこそ刺激的な対談本になったとも言えるのだが、まとめるのに苦労したことを思い出す(参考:『本の話』https://books.bunshun.jp/articles/-/2670)。

 立花さんの『宇宙からの帰還』は未だに増刷が続く大ベストセラーで、この本を読んで宇宙に憧れる人も多いはずだが、実際に宇宙飛行士になってしまったのは、この方くらいだろう。特集4本目の野口聡一氏(JAXA宇宙飛行士)である。野口氏は高校時代にこの本を読み〈「宇宙飛行士」という職業について真摯に考える機会を与えていただいた〉のみならず、立花さんが書いた〈宇宙での「意識の変容体験」〉が野口氏の〈宇宙飛行後の大きな研究テーマになりました〉という。

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野口聡一さん(JAXA宇宙飛行士)

立花さんをゴリラにたとえるなら……

 特集5本目は私が山極壽一氏(霊長類学者・人類学者)にオンラインで話を聞いて構成したものである。私はせっかくゴリラ研究者に聞くならと質問の最後に「立花さんをゴリラにたとえるなら、どんなタイプのゴリラですか」と問うた。冗談みたいな質問なので答えてくれないならそれでもかまわなかったのだが、山極氏の答えは予想を裏切る、しかも絶妙の答えで、正直、私は山極氏の話を聞きながら涙をこらえるのに必死だった。是非お読みいただきたい。

 山極氏は研究者として、ゴリラにも人間と同じく同性愛や子殺しなどの現象があることを発見して、立花さんのインタビューを受けることになったわけだが、大学で立花さんのゼミに参加した者たちは、特段目立つ業績を持たなかったにもかかわらず、学生という特権的身分のおかげで立花さんに長期にわたってインタビューを受ける幸運に恵まれたのかもしれない。山極氏の次に配置された特集6本目を読んで、ふとそう思った。

東大での講義

 筆者は、私と同じ東大・立花ゼミ元学生の平尾小径氏。平尾氏は学生の話を聞く立花さんに注目する。たしかに立花さんは学生の話をよく聞き、質問を重ねていた。学生は立花さんにもっと話を聞いてもらいたいと活動範囲を広げる。その結果として〈学生たちは、それぞれのやり方で人生を狂わせた〉と言えそうだ。筆者も例外ではない。