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あれはもう、中2病みたいな感じで……

――中学生時代には哲学にも関心があったそうですね。

上坂 あれはもう、中2病みたいな感じで……。江戸川乱歩とか、夢野久作が好きだったんですけど、読んでいるとニーチェが出てきたんです。それで「ニーチェの永劫回帰って何だろう」って知りたい気持ちが湧いて、神保町に行って、岩波文庫の古本を探して買って。でも全然読めなくて……。難しくて読みにくいし、字も小さいし、古本独特の匂いもするし。哲学は中学以来さっぱりですが、そこからつながって心理学が好きになりました。

――たとえば、どういうものを読みましたか?

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上坂 ユングはスピリチュアル系の読み物としても面白いです。本当に心理学をやろうと思うと、統計学とか数学に強くなければなりませんけど、趣味として読むだけで十分楽しめます。フロイトのヒステリー分析とかも、中高時代によく読んでいました。

――今も、心理学には興味があるんですか?

上坂 コンビニで500円くらいで売っている雑学系の心理学本、ありますよね。ああいう本も、基礎的な心理学を押さえておくと面白く読めるんです。何でも基礎を知っておくことは大事だなって思っています。

――ソ連の心理学だとどんな人がいますかね。パブロフ?

上坂 「パブロフの犬」のパブロフは行動原理学ですね。実験に犬を使うあたりが、いかにもソ連。スプートニク計画でも犬が宇宙に行きましたね。

 

私、ジダーノフ批判に衝撃を受けたんです

――国歌からソ連大好き“共産趣味”の世界に入られたとのことですが、ソ連の音楽でお好きな作品や作曲家はいますか?

上坂 クラシック音楽には馴染みがなくて、全然聴いたことがなかったんですが、大学でソ連芸術について学んで、たくさんの作品に触れました。例えば、ショスタコーヴィチ、ラフマニノフ、プロコフィエフ、ハチャトゥリアン、あとカバレフスキー。でも、20分以上ある曲はなかなか最後まで聴けないんですよ。途中で眠っちゃうから……。でも、ショスタコーヴィチの作品は展開がはっきりしているから飽きが来なかったですね。ソ連は抽象的な音楽を作ると殺されかねない時代がありましたから。

――スターリニズムですね。

上坂 私、ジダーノフ批判に衝撃を受けたんです。スターリン体制下の共産党中央委員会書記だったアンドレイ・ジダーノフによる芸術統制。特に、抽象的で人民の理解を超えるような前衛的な作風の音楽は糾弾の対象になって、自己批判を迫られたという。これでショスタコーヴィチは矢面に立たされたんですよね。私、こんな批判されたら、すごい落ち込みます。

――自分の表現が真っ向から否定されるわけですからね。政治権力によって。

上坂 満足のいくニューシングルが完成したのに、プロデューサーがいきなりスターリンになって、自己批判せよって言われたら、その悲しみやいかばかりか……。ソ連史はさまざまな教訓に満ちていますが、文化統制と芸術家の亡命はまさに深いテーマです。安定のため、信念を曲げてスターリン礼賛の歌を作り続けるか、自分の信念を貫くために国を捨てるか。自らの意に反してでも売れ線を書くか、自らの芸術観で道を進むのか、みたいな話ですよね。なので、ソ連の音楽を勉強したときに、いちばん印象に残ったのはジダーノフ批判でした。

ジダーノフ(中央)とスターリン(右)©getty