―アメリカ映画ではない作品といえば、2年前、ポン・ジュノの『パラサイト 半地下の家族』が作品賞や監督賞などを獲得しました。そこからの傾向ですか?
町山 でしょうね。ただ、ポン・ジュノの場合、受賞するための下地をずっと作っていたんです。
『パラサイト』を製作したCJエンタテインメントのミキー・リーという女性プロデューサーがいましてね。彼女はスティーヴン・スピルバーグに映画製作のノウハウを教わった、いわばスピルバーグの弟子。彼女が何を一番学んだかというと、「監督をスターにする」こと。だから、10年以上にわたり、ポン・ジュノの映画をアメリカの劇場で公開し、地盤固めをしてきたんです。
『パラサイト』に関しては、ものすごい数の取材をポン・ジュノはこなしてましたしね。雑誌からテレビから、身を粉にして。それもスピルバーグのやり方です。
―やっぱり、投票してもらうためにはプロモーション活動が重要なんですね。
町山 もちろん。広告もガンガン出します。エンタメ雑誌とか業界紙とか。あと、この時期になると、ロサンゼルスの街はそこら中候補者の広告だらけなんです。
―え、それはどういう?
町山 ビルボードを出すんです。「For Your Consideration」という文言とともに名前だけがある広告を。「投票日までに私のことを考慮してください」と。
―まるで選挙みたい!
町山 関係者以外にはなんのことやらですが(笑)。
あの作品が候補にも入らない裏事情
―去年は、中国出身の女性監督クロエ・ジャオが『ノマドランド』で作品賞と監督賞を受賞しましたが、それもやはり『パラサイト』からの流れでしょうか?
町山 実は、そこが今のアカデミーが抱える自己矛盾。授賞式のテレビ放送権を海外に売ることがアカデミーにとって一番のビジネスですが、2000年代半ばから視聴率がどんどん下がっていった。それは、クオリティは高いが「誰も観てない映画」がノミネートされるようになったからなんです。
アカデミー賞の視聴率が一番高かったのは90年代から00年代初頭で、『タイタニック』があったり『ロード・オブ・ザ・リング』があったり、誰もが観た映画がノミネートされ、ワクワク感があった。ところが、だんだんと娯楽大作系は避けられるようになり、09年、『ダークナイト』がアメリカで大ヒットしたのに肝心の作品賞にノミネートされなかった。
当時、作品賞は5作品に限られていたのがその理由だと、翌年から枠を10作品に広げたんです。でも、ヒット作がなかなか入らない。今回もそう。昨年、アメリカで一番ヒットしたのは『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』。全米興行収入880億円突破の史上最大規模のヒット作なのに。