俳句はオーソドックス面(づら)したやつじゃダメなんですよ
――俳句は世界でも類を見ないほど短い「定型詩」です。俳句の世界の最長老として、この日本独自の文芸である俳句は、これからどんな道を歩んでいくと思われますか?
金子 うーん、俳句というのはたしかに「日本独自」の文化ではあります。しかし、その独自ということが何なんだ、ということを絶えず自問自答しなければ道は開かれていかないでしょう。むしろ海外では俳句を体系的に「詩論」として立派にまとめておかなきゃならんという動きもあるようですがね。最近では、俳句というのは非常に独特な光を持ったものだと再評価する向きもあるようだけど。
――18歳で句作を始め、句歴80年を超えた先生ですが、やはり「独特の光」というものを俳句に感じますか?
金子 いや、そこに関してはあんまり自信がないね。どうも私は臆病者なんだ(笑)。
――俳句は若い層にもじわじわと広がりを見せています。毎年夏に行われる俳句甲子園は20回大会を迎えましたし、最近ではピースの又吉直樹さんや、フルーツポンチの村上健志さんら、俳句に親しむお笑い芸人の方もいるんです。
金子 大いに結構。俳句というのはオーソドックス面(づら)したやつじゃダメなんですよ。むしろ、さっきの橋本夢道しかり、神戸で活躍して『神戸』という小説も書いた西東三鬼しかり、俳句にはユーモア精神が必要で、だからこそアウトサイダーが俳句の世界を活性化してくれる部分もある。冗談から駒というやつだ。だから海外にも、若い世代にもどんどん広がっていってほしい。俳句で遊んでくれる人たちがいる限り、未来は明るいと思いますよ。
かねこ・とうた/1919年、埼玉県生まれ。東大経済学部卒業後、日本銀行に入行。43年に海軍経理学校で訓練を受け、主計中尉として南洋トラック諸島に赴任、終戦を迎える。62年『海程』創刊、のちに主宰となる。74年、55歳で日銀を定年退職。戦後の前衛俳句、社会性俳句運動の主導者として、現在まで俳壇を牽引している。句集に『少年』『東国抄』『日常』など。著書に『小林一茶』『悩むことはない』など。