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味噌汁は水道の蛇口から出てくると思っている子も…

 変化を嫌いがちだと言われる沖縄県民には、目立つより周囲の空気を読むことに重きを置く暗黙のルールがあると、沖縄大学准教授の樋口耕太郎さんが語ってくれた。本土以上に「同調圧力」が強く、日々、つつがなく過ごす生き方をよしとしてしまうのだという。その結果、他者を見ない無関心の文化が広がったというのだ。

 沖縄の場合、貧困が可視化しにくく、すぐ身近に貧困に喘ぐ人がいるのに、それを誰も見ようとしないのではないかという印象を、私自身が実感した。

沖縄県北谷町の米海兵隊基地キャンプ・フォスター(筆者提供)

 社会福祉活動をしている関係者によると、「シングルマザーの家庭の場合、彼女の母も祖母も、同様の生活をしていた例が多い。彼らは周囲との関係を遮断して、ギリギリの生活をしている」という。その結果、子どもが犠牲になる。

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 たとえば、子どもの万引きには目を瞑る文化があるとか、親が生活費を稼がないから小学生がビラ配りのアルバイトをするとか、「朝キャバ」という風俗で中学生がアルバイトをしているとか、取材で知る数々の実例は、都市伝説では? と耳を疑うようなものばかりだ。

 そもそも生活が、実態としてないのではと思ってしまうようなケースも聞いた。

 親に料理を作ってもらった経験がなく、味噌汁は水道の蛇口から出てくると思っている子、誕生日を祝ってもらったことがなく、バースデーケーキを用意しても、その意味を知らない子もいる。また、ある施設は、家族が家事をしてくれない子には、自分たちで服を洗濯させて、それを着て、家に帰すようにしている。

 どれもこれも、信じられない話ばかりだが、それが現実であると受け容れないと、沖縄の素顔は見えてこない。

復帰後に格差解消の努力を怠ったツケが回ってきた

 こういう話を列挙すると「沖縄はかわいそう」とか「遅れている」という安易な断定をしがちだ。だが、そんな単純な話ではない。

米海兵隊憲兵隊のパトカー(筆者提供)

 私たちには沖縄の占領時代を考慮せず、本土と同じ歴史を刻んできたという思い込みが前提にある。

 日本が戦後復興で、奇跡的な経済成長を遂げ、先進国の仲間入りをした1972年、ようやく沖縄は、日本に戻ってきた。これで、本当の意味で、日本の戦争は終わった――、と本土の人たちは喜んだ、かもしれない。