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刑務官の「右腕的な存在だった」

「俺たちが収監されていた名古屋刑務所は再犯者が集まるんです。名古屋刑務所は厳しいことで有名です。過去に刑務官が受刑者の肛門にホースを突っ込んで放水して、受刑者が死んでしまった事件があったくらいですから。俺は名古屋に行ってもう二度と刑務所はごめんやと思いましたね。

 そんなところで模範囚でいられた長久保はすごいですよ。2年間無事故(トラブルを起こしていない)でないと与えられない『赤バッジ』をつけていました。俺らが所属していたミシン工場でも、60人中で2人か3人くらいしかいない優秀さです。喧嘩はもちろん、良かれと思って喧嘩の仲裁をしても、トラブルにかかわったとして『赤バッジ』はもらえなくなってしまいますからね」

長久保容疑者が立てこもったネットカフェ ©時事通信

 長久保容疑者は「ミシン工場の総班長だった」。総班長とは工場にいくつかある班を束ねる「事実上の工場ナンバー1」で、刑務官の「右腕的な存在だった」という。

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「彼はね、自分の作業を真面目にするのはもちろん、班員の面倒見もいいんです。俺もミシンの使い方を丁寧に教えてもらいました。それに、リーダーとして人事などにも関わっていました。例えば、立ち仕事になるアイロン担当は大変な部署ってことで食事量が多いんですね。だからみんなやりたい。欠員が出ると、長久保がオヤジに『次は〇〇さんで』って進言するんですよ。それがとても公平でね。ヤクザもんの組長とかもうまくまとめていました。オヤジは外部の業者との交渉に立ち会わせるくらい長久保を信頼していましたよ」

「刑務所生活を苦しんでいないようでした」

 受刑者仲間にも刑務官にも頼りにされていた長久保容疑者。刑務所の居心地はよかったようだ。

規制線が張られた事件現場のネットカフェ ©文藝春秋

「刑務所に『戻りたい』だなんて普通は考えられへん。実際、自由もないし規律は厳しいし、大変でしたから。でも当時の長久保を見ていた身としては、そんな動機にも納得できるところはあります。

 たとえば、赤バッジなら月2回は刑務作業の報奨金を使って甘い物が食べられるのですが、彼は食べない。甘い物は普段の食事には出ませんから、刑務所生活での唯一の楽しみですよ。俺たちなんかいい年して『ミスドやー!』とか喜んでいましたから。それでも、彼だけは食べない。甘い物よりも本に金を使いたいようでした。

 なんていうか、刑務所生活を苦しんでいないようでした。痛点のない魚みたいなやつやと思いましたね」

Xさんは長久保容疑者について「頼りにしていた」と話す一方で、その人柄や思想には「理解に苦しむことが多かった」とも打ち明ける。