私が会社を去る直前の日々においては、かれこれ2年間スーツを着ることはなかった。あまりにも普段着ないので、1着を残し、すべてリサイクルショップで売り払ってしまったほどだ。
クライアント先を訪問する場合でも、ジャケットと襟のついたシャツさえ着用していれば、よっぽど明るい色でもない限り、失礼にあたることもないだろう(私はかつてデニムシャツを着ていって怒られたことがあるから、賢明な読者諸氏におかれては避けることをおすすめする)。
このように、従来のコンサルタントのイメージも急速に変化している時代、それでもなお、コンサルタントのコンサルタントたる所以は、一体なんなのであろうか。
その筆頭に挙げられる核心的要素は、「速度」にある、と私は考えている。
コンサルタントのアイデンティティとしての“速さ”
コンサルタントはそれぞれ強みとなる専門性を持ち、クライアントに価値提供を行っているが、多くの場合、クライアントが期待していることは専門的知識や提案だけではない。プロジェクトという単位に切り出された特定の検討テーマについて、圧倒的なスピードで議論をリードしてくれることが期待値に含まれているのだ。
コンサルティング企業に高額なフィー(報酬)を払って依頼することはすなわち、課題検討の特急チケットを買っているようなものだ。そのため、コンサルタントは自身とチームの仕事に対して常にスピードを求める。
ヤマウチや西崎をはじめとする先輩たちは、とにかく「速度にこだわる」コンサルタントであった。
まず物理的なタイピング、PCの操作が異常なほどに速かった。オフィスの中でマウスを使っているのは私だけであり、先輩たちはPCに向かう際、マウスを一切使わなかった。
当時、会社では海外拠点での研修が頻繁に開催されていたのだが、日本オフィスのメンバーがマウスを使わずに、さまざまなショートカットを駆使してExcelを操作しているのを見て“wizard...(まるで魔術師だ)”と感嘆の声が上がるほどだった。
私がExcelをマウスを使って操作しているのを見たヤマウチは、マウスを取り上げ、「次マウスを使っている所を見たら、手を切り落とす」と言い放った。最初は操作に戸惑ったものの、1週間もすればマウスがないことに体が自然と慣れていった。
ここからは、スピードを生むための具体的な方法を順を追って説明していこう。
1つの作業ロットを2時間にする
作業の指示をもらったものの、自分が一体何をすれば良いのかわからないまま時間だけが過ぎていく……。そんな経験は誰にでもあるのではないだろうか。
私もプロジェクトに配属された当初は、ヤマウチの作業指示を理解することができず、そもそも何を考えれば良いのかがわからないままなんとなくググっては1時間各サイトを彷徨い、その結果をExcelに貼り付けては、2時間後にヤマウチにどつかれる、という毎日を過ごしていた。
速度を身につけるためには、まずこの「迷子の状態で漫然と作業をしている時間」を徹底的に排除する必要がある。その第一歩として、1日8時間の作業ロットを2時間単位に分割したい。