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主人公・不動明の圧倒的な「メンタルの強さ」

「子どもとは、言ってみれば、わけも分からずこの世に生まれてきて、『自分とは何か』という答えを懸命に探し求めている哲学者みたいなもんやからな。『変身ヒーローもの』『魔法少女もの』にはそういう問いかけが含まれているからこそ、子どもの心を魅了するのかもしれん。

 話を戻すと、『変身ヒーローもの』として漫画版『デビルマン』を読み直した時に改めて驚かされるのが、主人公・不動明のキャラクター、人間としての圧倒的な『強さ』や。仮面ライダーの主人公・本郷猛はショッカーにさらわれて無理やり改造人間にされてしまうけど、不動明は、親友・飛鳥了の『人類を守るために、俺と一緒に地獄に落ちてくれ』という願いを受け入れ、自らの意志でデーモンと合体することを決意する。

 不動明自身の言葉を引用すれば、『うまくいけば化け物となり、死ぬまで悪魔と殺し合わねばならぬ阿修羅地獄! まずくいっても化け物となった我が身を焼き殺さねばならん』というわけや。これだけ過酷な運命を、親友のため、人類のために自ら選び取る精神の強さとかっこよさ。8歳の時から45年間、オレは不動明に痺れっぱなしや!!」

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「デビルマン」生みの親・永井豪氏 ©文藝春秋

「(要するに、その頃から全然成長していないってことか)。『crybaby』ではそのあたりの展開はほとんど省いていましたね。不動明はほとんど事故みたいな感じでデビルマンになっちゃったし」

「そやから、明の精神の強さも、物語の根幹にあるべき了との絆の深さも全然伝わって来ないんや。しかも、明自身がすぐに泣いたり、自らの破壊衝動や性欲との葛藤に苦しめられたりするもんやから、見ていて頼りなくてしょうがない」

「それは主人公の内面を掘り下げているわけだから、作品のマイナスとは言えないのでは」

「主人公の葛藤を掘り下げれば、高級な作品ができると思い込む。それも作り手の陥りやすい過ちや。デビルマンの作品世界全体が、次第に闇と狂気に満たされていくからこそ、主人公は逆に精神的に安定した、頼りがいのある人物であることが求められるんや」

人類が狂気にとらわれていく中、不動明は最後まで自分を見失わない

「漫画版『デビルマン』の中盤では、不動明が突然カメラ目線になって、読者に向けて語り始める。

〈やあ諸君 とうとうここまでわたくしの話を聞いてしまいましたねえ わたくしこと不動明が親友飛鳥了の家の門をくぐったとき、「地獄」がまちうけていたように「あなた」にも! ここまで不動明の物語をただの作り話としてきいてきた「あなた」にもこれから わざわいがふりかかるのです。「地獄」が待ち受けているのです〉

「週刊少年マガジン」1973年1月14、21日号

「まさに『怪談』を聞いている雰囲気ですねえ」

「『デビルマン』という作品の怖さは、これがはったりでもなんでもないことや。読者は傍観者で居続けることができず、否応もなく作中世界に引きずり込まれて、『地獄巡り』を余儀なくされる。だからこそ、主人公は読み手を精神的に支える強靱なガイド役・導き手でなければならない。『不動明』という名前は、仏教の守護者『不動明王』から取ったんやろうけど、まさに、読者の心を作品世界の闇から守る『不動の心を持つ守護者』こそが、不動明の本質や。

 人類全体が狂気にとらわれていく中でも、不動明は最後の最後まで自分を見失わない。逆に言えば、主人公の精神的造形がこれだけしっかりしていたからこそ、『デビルマン』という作品は、人間の心の暗部に深く入り込み、その世界を描き切ることに成功したんや。『シン・ゴジラ』が怪獣映画の本質を突き詰めつつ、ゴジラの設定をアップデートしていったように、デビルマンも『変身ヒーローもの』という原点に立ち返り、敵・デーモンをはじめとする設定の徹底的なアップデートと、力強い主人公の造形に全力を注ぐ。これが『デビルマン』のリメークを成功させる第一条件やと思うで」

続・なぜ「デビルマン」の映像化は失敗続きなのか?に続く