カギは「幸福感」
その一つが、本章の冒頭で澤口教授が「恋愛の多幸感」とは別に言及した、「幸福感」です。
皆さんも、覚えがないでしょうか。これまでの恋愛で、恋に落ちた瞬間から毎日が充実して満たされた気分になり、ちょっとした不満も吹き飛んで前向きな気分になれたことを。
一般に、恋愛の第1ステージではドキドキ胸が高鳴り、性的衝動が起こったり、息苦しさや不安感を覚えたりしますが、一方で「あの人を見ると幸せ」といった快感や、「この人となら、世界を敵に回しても怖くない」といった「多幸感」も高まります。よくも悪くも、多くのエネルギーを消費し、ドーパミンやPEAが放出され、パワフルになれる感覚です。
こうした多幸感は、ある時期から完全に鳴りを潜めてしまう場合もありますが、「この人といると、なぜか安らぐ」や「信頼できて、安心していられる」など、人生そのものが穏やかな「幸福感」に包まれていく場合もあります。
幸福ホルモンの働き
後者のような、癒しや信頼(愛着)に近い感情を抱かせるものこそ、快感系のドーパミンとは真逆とも言える「幸福ホルモン」で、その代表がセロトニンやオキシトシンでしょう。
セロトニンは、脳を落ち着かせリラックスさせる効果をもつ神経伝達物質です。フィッシャー氏によれば、情熱的な恋愛の第1ステージではドーパミンなどに押され、分泌量が低下しやすいものの、うまくいけば第2ステージで正常に分泌され始める、といいます。
一方のオキシトシンは、親しい人と手を繋いだりハグし合ったりと日々スキンシップを深め合うことで、長く持続的な放出が期待できます。一般に、出産・子育てに関係する「母性」のほか、社会行動形成や抗ストレス作用もあるとされ、別名「愛情ホルモン」とも呼ばれています。
’20年、岡山大学などの研究によって、オキシトシンが脳から遠く離れた脊髄にまではたらきかけ、オスの交尾行動を脊髄レベルで促進させることも明らかになりました(同・岡山大学ほかプレスリリース、10月30日配信)。
つまり、恋愛第1ステージで放出されやすいドーパミンは、激しい恋愛感情や性的快感、すなわち「恋愛」や「性行為」と関連が深い一方で、第2ステージで放出されやすいセロトニンとオキシトシンは、信頼や愛着といった穏やかで持続的な愛情、あるいは繁殖行動(スキンシップ)の一環としての性行為や「結婚(生活)」に関連する欲求に近い、とも言えるでしょう。