公立の精神科病院から医療少年院に移ってみて、そこに軽度知的障害の少年たちが数多くいる現状に遭遇し、病院とは違う問題があることを知りました。知能の問題がきっかけで勉強についていけず怠学し、結果、非行につながり犯罪の加害者になっている少年たちがいる現状を初めて知ったのです。病院ではあまり見ることのなかった知的障害の子どもたちの課題を、医療少年院で初めて認識しました。知的機能のハンディが、子どもの生きづらさや困難を語る上で避けて通れない問題だと気づいたのです。
境界知能、軽度知的障害が見過ごされる理由
境界知能や軽度知的障害だと、学校の先生や親でも気づかないケースが多々あります。統計上は、境界知能は人口の14%、35人学級であればクラスに5人くらいはいる計算です。困っている子どもの人数は想像以上に多いにもかかわらず、です。
家庭では、わが子とはいえ、特に家庭で親御さんが気づくのはなかなか難しいことです。自分の子ばかり見ていると比較対象がなく、どうしてもわが子を基準に考えてしまいがちです。きょうだいができてから気づく場合もありますが、1人目だとなかなかわからないかもしれません。また、3歳児健診や5歳児健診で、わが子の遅れを訴えても「経過観察」とされるケースもあります。
集団の中の1人として子どもを見ている学校のベテランの先生であれば、知的障害に気づくこともありますが、境界知能となると概して難しく「この子はなんかほかの子と違うな」という違和感を覚えながらも、特別な支援にまではつながらないケースもあります。
見た目ではほとんど区別がつかないため、見過ごしてしまうことも
2019年からは教職課程に「特別支援教育」に関する科目が必修化されました。ただし、授業で知的障害の概要を教わっても、現実に境界知能や軽度知的障害の子どもに接する機会があるとは限りません。そういう子どもたちが、実際にどのような言動をとるのか、それがどういう症状の表れなのか、というところまでは具体的に学べる機会がなかなかないのです。ですから、境界知能や軽度知的障害の子どもがクラスにいたとしても、先生方が見過ごしてしまうこともあるでしょう。