療育手帳を取得するメリットは、各種福祉サービスを受けられる、障害の証明(「障害者割引」を受けられる)、「障害者求人」への応募が可能になることなどが挙げられます。この療育手帳を取得する必要がないということは、福祉サービスを必要としていないとも受け止められてしまうこともあります。しかし、困っていないから療育手帳がいらない、というのならばまだいいのですが、本人も周囲も困りごとの原因が、知的障害にあることに気づいていない場合があります。
「私はどうして勉強ができないんだろう?」
「どうして仕事がうまくいかないんだろう?」
などと困っていたとしても、それだけで知能検査を受けに行く人など、ほとんどいないのが現状です。
医療少年院で知った少年たちの課題
児童精神科医である私も、かつては知的障害の子どもの存在に気づいていない時期がありました。私はもともと、公立の精神科病院で働いていて、発達外来、児童思春期外来などが専門で、患者さんのほとんどが発達障害の子どもたちでした。ずっと自閉スペクトラム症やADHD(注意欠如・多動症)の子どもたちを診ていたわけです。ですから、「困っている子ども」というと、主に「発達障害」のイメージでした。
その後、医療少年院で働くことになったのですが、そこで問題になっていたのは多くが知的障害でした。軽度知的障害や、境界知能をもった発達障害の少年たちが数多くいたのです。
では、なぜ病院では知的障害の子にはあまり出会わなかったかというと、子どもの障害が知的な面だけだと、医学的治療はあまり関係しないからです。知的障害というと特別支援教育や福祉サービスは必要ですが、それだけでは医療機関にかかる必要性はあまりありません。自傷他害等が激しい強度行動障害の方々の投薬調整や、診断書の更新以外は、軽度知的障害の方々(知的障害の約85%)と精神科医療とは、ほとんど関わることがなかったのです。一方、発達障害だと、診断や通院による継続的な治療の必要があったりして、医療との関わりが深くなります。