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小倉 富山の高岡に近い印象もあるダーリーは、中国にありがちな金と赤がほぼなくて、ブルーグレーと白の色調がとても美しい。街でみかける文字のタイポグラフィとかも、デザインセンスが突出してるんですね。そこでふと思ったのが、ペー族のように平野を押さえている民族は「名門」だということ。

ダーリーの美しい街なみ ©小倉ヒラク

高野 どういうこと?

小倉 雲南省はもともと平野が少ないですが、最大の平野であるクンミン(昆明)という州都は漢民族の街で、その次に大きいのがダーリーです。ペー族は漢民族が入ってくる以前に雲南で初めて統一王国を作った貴族の末裔で、漢民族が入ってきた後も、高い文化力とコミュ力で広く平野部を押さえてきました。

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高野 歴史的に平野を押さえられたから、強く大きくなったとも言えるけど、あのあたりは山岳地帯なので、確かに盆地を支配するのが強い民族ですよね。ミャンマーでシャンと呼ばれるタイ族も山岳民族の中では盆地にしか住まない有力な名門と言えますね、シーサンパンナを牛耳っていますし。

小倉 あと人数は少ないですが、リージャンを押さえているナシ族もそう。名門は平野にいるのに対して、そこから押し出された人々が山の中にいるという構造がありますが、やっぱり納豆カルチャーは主に山のほうでしたか?

高野 完全に山ですよね(笑)。チベット族のように乳が採れて大豆をあまり栽培しないところ以外は、山岳地帯では本当に納豆ばっかり食べていますよね。納豆は保存がきいて栄養価が高いですから。

 今回の旅は、発酵茶も大きなテーマの一つだったんでしょう?

小倉 はい、発酵茶の世界はすごく面白くて、雲南省の南部の経済は文字通りプーアル茶で回っていました。プーアル茶を作っている二大勢力はタイ族とハニ族で、僕が今回の旅でお世話になったのは後者でしたが、お茶の栽培の仕方は二つあります。

 一つは日本と一緒で、低く刈り込んで、斜面とかに綺麗な茶畑を作っていく茶畑で、タイ族の一般的な茶園の作り方です。一方、ハニ族はジャングルなんですね。「茶園見せてあげるよ」と言われて行ったら、森のように鬱蒼とした茶園で、先祖代々数百年間受け継いでいる茶樹は幹が太すぎて刈り込めないから、もうジャングルのようになっている。だからお茶を摘む時も、ハニ族の人たちは木にハシゴかけて、リスのように木登りして、背中の籠にお茶を摘んでいく。

 

 お茶の作り方も二つあって、一つは茶に熱を入れて固めた後に、コンポストみたいなことするんですよ。茶葉を摘んで、熱を入れて、酵素の働きを止めて、カビがいっぱい付いている布団をかける。するとカビが茶葉について、お茶の麹みたいになるんです。それを圧縮して固めて出すのがスタンダードな作り方で、「熟茶」と呼ばれるタイ族のやり方です。

 ハニ族のほうは「生茶」といって、カビ付けをしないで、そのまま圧縮してお餅の形にして、3年~5年、勝手に菌が生えてくるのを待って熟成させていくスタイルです。