母親は侑夏さんが「辛い」と何度も発言していたことを思い出し、自殺の可能性も頭をよぎったという。学校近くのコンビニは目の前に踏切があり「飛び込んでしまうのではないか」という不安から「ちょっと電話出なさい」とメッセージを送信。しかし侑夏さんは「今中いるから」と返事をしたのを最後に、電話にも出なくなり、メッセージも既読にならなくなった。そして駅のホームから線路に飛び込んでしまった。
「自分が死ねば顧問2人に会わなくて済む、と思ったのでしょう。ストレスを抱えて、追い詰められた人間の思考回路はこういうものだと思います。亡くなった後、侑夏は『ああ、よかった。これで部活に行かんでもよくなった』と思ったのではないでしょうか」
「悪いのは剣道そのものではなく、博多高校剣道部の異常な指導」
博多高校剣道部に苦しめられ、命を落とした侑夏さん。そのため、母親は剣道をさせたことを後悔したこともあった。
「侑夏に剣道をさせてしまったから、私が剣道をしていたから、侑夏が死んでしまったのではないかと後悔したこともあります。しかし時間が経って侑夏のことを思い出すと、彼女の人生と剣道が切っても切り離せないのも確かなんです。悪いのは剣道そのものではなく、博多高校剣道部の異常な指導だと思うようになりました」
その後学校との話し合いを経て、母親は学校側を提訴しようとしたが、学校側が侑夏さんの自殺の原因が教職員による不適切指導だったことを認めて謝罪し、再発防止を約束したことで22年10月25日に和解が成立した。
「以前から顧問の2人はずっと不適切な指導を続けていて、侑夏の前にも特待生の剣道部員が退部したり、休部したりということも起きていたこともわかりました。学校側は早く、おかしいと気づくべきだったんです。今年からは、新入生に対して侑夏の事件を伝えて、学校として再発防止に取り組むことになりました」
2012年の桜宮高校バスケットボール部の事件をきっかけに、文部科学省は、「体罰等の実態把握」を実施している。22年度からは調査の範囲が公立高校だけでなく国立と私立を含めるようになり、1年間に全国で483校での体罰問題が発生し、懲戒処分は572件にのぼった。
侑夏さんと同じような苦しみを受けている生徒が今も数多くいる可能性は高い。