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佐藤 原作の魅力は何と言っても安倍晴明と源博雅ふたりの関係性なので、今作ではふたりが出会って関係性を構築していく姿と、人間の本質を大事に描きました。原作にないものもたくさん描いていますけど、原作ではやらないということは絶対にやらないよう気をつけたつもりです。

「万が一」が起こらないよう、あえてフェイクを加えた呪術

加門 今作では、佐藤監督が描きたい呪術世界を補佐するために作中ではさまざまな印や呪文、御札を登場させましたが、長年呪術を研究している立場から、万一のことが起こらないことをいちばん意識しました。

 本物の呪術を映像化するのって、実はすごくリスクが高いんですよ。古文書や現在も使われている中国道教の呪文や印などを参考に、あえてフェイクを加えながら、オリジナルで考案したものを採用しています。

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©2024映画「陰陽師0」製作委員会

佐藤 獏さんの原作は、どちらかというと幽霊や妖怪を退治する話で、映像化されると、真言密教系の術を使っているのが多いんです。あれは、真言密教のお坊さんがやるならいいけど、陰陽師でやるとお坊さんと見分けがつかないので、加門さんにはそこも意識して欲しいとお願いしました。

加門 既存の陰陽師ものは、大体密教系か神道系の術を使っていましたよね。だから、そことはまた違うところで、道教を取り入れたり、実際に陰陽道の文献に残っているものをアレンジしたりして変化をつけました。

難しかった龍を登場させるシーン

佐藤 映画全体のできばえに関しては、どうでした?

加門 本当に素晴らしい作品だと驚嘆しました。呪術にここまで正面から向き合った映画は、おそらく日本でははじめてだと思います。

加門さん ©細田忠/文藝春秋

 たとえば普段、神社でご祈祷してもらっても、実際に神様の姿が見えるわけではありませんが、それを佐藤監督は見事に可視化して、しかも、このうえなく美しい映像で表現してくださった。これは、もう大喝采です。

佐藤 ああ、よかった…。自分では自信満々でしたが、「あそこは駄目だった」「いまいちだった」などと言われたらどうしようと、実は戦々恐々としてたんですよ。ホッとしました(笑)。

 でも、物語の核となる龍を登場させるシーンはすごく難しかったんです。西洋では龍はトカゲとか蛇のような実態として現れますが、東洋では龍は、エネルギーの象徴です。今回はVFXを使って、嫉妬や様々な欲、殺意の象徴としての「火龍」と清めとしての「水龍」を表現してみましたが、これまでに映像化されたことがないので、何もないところから想像して描いていくのが大変でした。

 米アカデミー賞で視覚効果賞をとった『ゴジラ-1.0』を撮った白組のVFXクリエイターにも参加してもらえたことで、クオリティーを上げられたのはよかったと思います。