これは現代の日本の人口減の実相をみごとに道破している。それに、男性の性欲を生殖に結びつけずに処理する装置(不道徳な習慣)が文明国には完備されていることも人口抑制に効果的であるともマルサスは指摘していた。炯眼の人である。
マルサスの人口論は今の人口問題についても大筋で妥当すると思う(人口は等比級数的に増えるという予測は間違っていたし、人間の環境破壊がここまでひどいとは考えていなかったが)。
200年かかって明治40年頃の人口に戻る
人類全体の人口は21世紀末に100億超でピークアウトして、それから減少する。もっと早く減り始めるという予測もある。その後どこまで減少するかはわからない。
19世紀末の世界人口が14億だから、そのあたりで環境の扶養力とバランスがとれて人類は定常状態に入るのかもしれない。先のことはわからない。
しかし、さしあたり先進国は(アメリカを除いて)どこも急激な人口減に直面する。その趨勢のトップランナーは日本である。
日本の人口は最近の統計では2070年に8700万人にまで減ることが予想されている。現在が1億2600万人であるから、今から年83万人ずつ減る計算である。83万人というと山梨県や佐賀県の人口である。それが毎年ひとつずつ消える。
2100年の日本人口について内閣府の予想は、高位推計で6400万人。これはかなり楽観的な数値である。中位推計が4900万人と予測されている。
いずれにせよ、21世紀末に日本の人口は今の半分ほどになることは間違いない。日露戦争の頃が「生霊五千万」と言われたから、二百年かかって明治40年頃の人口に戻る勘定である。
神戸女学院大学 名誉教授、凱風館 館長
1950年東京都生まれ。東京大学文学部仏文科卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程中退。専門はフランス現代思想、武道論、教育論など。2011年、哲学と武道研究のための私塾「凱風館」を開設。著書に小林秀雄賞を受賞した『私家版・ユダヤ文化論』(文春新書)、新書大賞を受賞した『日本辺境論』(新潮新書)、『街場の親子論』(内田るんとの共著・中公新書ラクレ)など多数。