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「病気の呼び方はさまざまですが、ギャンブル依存症は正式な医学用語ではありません。世界保健機関が定める精神および行動の障害の臨床記述と診断ガイドライン(ICD─10)では『病的賭博』という診断名が用いられ、アメリカ精神医学会が定める精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM─5)では『ギャンブル障害』という診断名が用いられています。病的なギャンブルの背景には統合失調症、気分障害、発達障害、精神遅滞などのさまざまな併存疾患があり、ギャンブル障害を単一の概念として定義することの是非については、議論が必要だと考えます。

 ギャンブル障害の研究はまだまだ発展途上です。神経学的、行動学的な知見が集積されてきていますが、それがギャンブル障害の原因によるものなのか、結果によるものなのかという点については、はっきりしたことはわかっていません。

 ただ、確実にいえるのは、意志や根性でどうにかなる行動ではないということです。ギャンブルという行動を維持する要因はさまざまです。なぜギャンブルという行動にのめり込んでしまうのかという個別の事情を無視して、叱咤激励を繰り返すような対応はすべきではありません。また、自殺のリスクが非常に高いことも重要であり、このような点からも、個々に応じた適切な対応というものが求められます」

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「立ち直る」「更生する」はNGワード

 ギャンブル依存症に対する誤解をなくすため、私は「(依存症から)立ち直る」「更生する」といった言い回しをしないでいただきたいと行政機関などに呼びかけています。そのことについては『朝日新聞』(2015年5月28日付)でも取り上げてもらいました。

《「ギャンブル依存症は病気であり、個人の資質や性格が原因とみなす表現は解決を遠のかせ、偏見や誤解を生む」と訴える。

 呼びかけているのは、「ギャンブル依存症問題を考える会」。(略)田中紀子代表は「日本ではまだ自分の意志で何とかなる問題と思われがちだ」と指摘する。

 カジノ誘致を検討している自治体が、ギャンブル依存症対策の例として、自助グループを取り上げた際に「ギャンブル依存症から立ち直らせる」と文書の中で説明していたのを修正してもらったこともある。「依存症から更生するためには」といった言い回しは報道を含め、今も目に付くという。田中さんは「精神論や道徳論で片づけられると相談しにくくなり、問題が長期化してしまう」と話す》

 この記事の中では、成瀬メンタルクリニック(東京都町田市)の佐藤拓先生の言葉も紹介されていました。

《病気だと診断を受けることで、本人も家族も過去のいびつな言動を受け入れることができる。医師の診察を受けたり、自助グループに通ったりと、回復までには時間がかかるので、早期に医療につなぐ社会の環境作りが大切だ》

 というものです。

 この問題を考えるにあたっては、病気を理解することから始めていかなければならないのです。