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 引っ越ししてテレビを買い替えるまでの間、録画した番組を何度も繰り返し見たものでした。

 思い返せば、人狼が一般的な認知を爆発的に広げていた時期のことです。

 動画サイトでもあれこれ趣向を凝らした動画がアップされていましたが、それでも私がテレビ番組の人狼が一番「面白い!」と感じたのは、それぞれの演者の反応やゲームの流れが、非常に分かりやすく編集されていたからかもしれません。

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 などということを、森バジルさんの新作『なんで死体がスタジオに!?』を拝読しながら、しみじみと思い出しました。

※さんざん人狼ゲームをごり押ししましたが、実は『なんで死体がスタジオに!?』は人狼のルールを知らなくても全く問題なく読めます。
※さんざん人狼ゲームをごり押ししましたが、実は『なんで死体がスタジオに!?』は人狼のルールを知らなくても全く問題なく読めます。

 舞台は、絶対に失敗するわけにはいかない生放送特番、「ゴシップ人狼」の収録現場。本番直前、現場において出演予定だった俳優の遺体が発見される。しかも「放送を止めたら収録現場を爆発させる」という犯人からの脅迫状付き! 「誰が嘘のゴシップを言っているかを推理する」というコンセプトだったはずの番組は、しかし同時に「犯人は誰か」の推理も進めなければならなくなる。果たして犯人は誰なのか、そしてその目的は――?

 作中、この番組を見ているお茶の間の視聴者が、先が気になって見るのを止められなくなるシーンがあるのですが、読んでいる間、私も全く同じ気持ちになってしまいました。

 人狼下手だけれども人狼好きな人間として大いに意気込みまして、ささやかな違和感に目をこらしながら、「ああじゃないか」「これはもしや?」などとさんざん穿った推理をしながら読んだのですが、これは本当に楽しい読書体験でした。

 作者の森バジルさんは、去年の松本清張賞の受賞者で、私は選考委員を代表して贈呈式で講評をさせて頂いたというご縁があります。よく「選考委員は親になったような気持ちで自分が世に送り出した新人賞受賞者を見る」という話を聞くのですが、私も例に漏れず、「森さんの新作はどうなっているかな」と、どこか心配するような気持ちがありました。

 正直なところ、あらすじを聞いた時は「大丈夫かな」と不安になってしまいました。