胃は強く光り、すい臓はそれよりずっと弱く光り、その他の臓器は、まったく光っていなかった。胃に関しては、もともと食物を消化する臓器なので、がんでなくても光りやすい傾向があるという。いずれにしても、がんの本体は、胃がんか、すい臓がんのどちらかだというのが、PET検査の結果だった。そこで内視鏡検査の際に、胃の組織を採取して、生体検査に回したのだが、がんは見つからなかった。
胃がんかすい臓がんの2つの候補があって、胃がんの可能性は低い。となると、消去法ですい臓がんということになる。
その推定に私は納得がいかなかった。理由は2つあって、ひとつはCT検査の画像を見た医師が、「すい臓はきれいなんだけどな」と言っていたことだ。
もちろん私も画像を見ていたのだが、たしかにがんに冒されて変形している様子はないし、病変も一切なかった。もうひとつの理由は、血液検査で、すい臓がんに反応する腫瘍マーカーの数値がほとんど上がっていなかったことだ。
そこで医師と相談のうえ、近くの大学病院で、再度精密検査をすることになった。12月15日のことだ。検査の中心は、超音波内視鏡の検査だ。
超音波内視鏡というのは、文字どおり超音波装置をともなった内視鏡を使った検査で、5~30MHzという高い周波数の超音波を発生させて、高い解像度の観察を可能にする内視鏡だ。この内視鏡によって臓器の組織内部や周囲の臓器、血管、リンパ節なども見ることができる。また、病理検査のために、超音波内視鏡に取り付けた穿刺を用いて、細胞を採取することも可能だ。そのことで、表面からではわからない粘膜の下に隠れた腫瘍も調べることができるのだ。
私の場合、胃の深いところ、さらにもっとも深いところからも組織を採取して、生体検査に回したのだが、がんはまったく検出されなかった。胃がんの可能性はほぼ消えたのだ。
一方、すい臓からは、組織採取をしなかった。私自身は、全身麻酔で眠っていたのだが、医師の判断で採取を止めたという。ひとつは、超音波内視鏡で丁寧に観察しても、すい臓に病変が一切見当たらなかったこと、そしてすい臓から穿刺で組織を採取すると、そのことが原因で、膵炎を起こしてしまうリスクがあることだった。
医師が下した診断は「すい臓がんステージ4」
結局、がんの本体がどこにあるのか不明というのが、精密検査の結論だったのだが、病院の医師が下した診断は「すい臓がんステージ4」というものだった。
徹底的な胃の検査で、胃がんの可能性はほとんどない。だから、すい臓のどこかに、超音波内視鏡にも映らないがんが隠れているのだろうということだった。ふつうは、検査をすると、どこにがんの本体があるのか判明するのだが、がん本体がすっかり隠れてしまう非常に珍しいケースだというのだ。
私は性格的に疑り深いので、その結論を受け入れてよいのか、迷っていた。
そこにラジオで何度も共演した医師からアドバイスがあった。彼が勤務する東京の病院にがん診断の名医がいる。その医師にCT画像を見せ、これまでの検査結果のデータを示せば、がんの正体がわかるはずだという。
12月18日、私は妻と一緒に東京の病院を訪れ、セカンドオピニオンの診断を聞いた。
驚くことに、結論は、近くの病院の医師の診断とまったく同じだった。すい臓がんのステージ4だ。私のなかでは、この日をもってステージ4のすい臓がんが確定した。
だから、これまでも12月18日をがん宣告を受けた日として公言してきた。
正直言うと、それでも私は納得していなかった。その後、がん治療を専門にしている病院で名医と呼ばれている医師にサードオピニオンを求めた。もっとも、そのときは私の体調がよくなかったので、妻がデータを持って、診断を仰いできた。結論は、またもや、すい臓がんのステージIVだった。
3人の医師が口をそろえて同じことを言う。しかも、そのうち2人はがん診断の名医といわれる人だ。もはや素人の私があらがう理由はない。私はすい臓がんのステージ4を受け入れることにした。その決断が、私の体に大きな衝撃を与えようとは、そのときは夢にも思っていなかった。