「木造リング」は必要だったのか
〈使用する木材の量は2万立方メートルで、通常の戸建てに換算すると住宅約800戸分にも及ぶようですが、これだけの木材をどのように調達するのか、十分な説明はされていないように思います。調達の過程で環境保護といった観点からの問題はないのか──建物の周辺ではなくても、建築がどこかの住民や環境に負担を強いることはあってはならないはずです〉
〈そもそも招致の段階での万博のキーコンセプトは、「非中心」「離散」でした。1970年大阪万博の「太陽の塔」のようなシンボルをあえて設けないことで、中心と周縁という格差を作らない、多様性を表す狙いだったのです。しかし、いつの間にか「木造リング」の計画が立ち上がった。会場をぐるりと囲う屋根が、「非中心」「離散」を表しているとは思えません。途中でコンセプトが変わることが悪いことだとは思いませんが、なぜ「木造リング」が必要だったのか。今回の万博は一貫して説明不足が目立ちます。万博の閉幕後には「木造リング」は解体され、木材を別の建築に再利用する可能性もあるようですが、それでは大阪の地には何が残るのでしょうか〉
日本の社会のためになっているのか
さらに山本氏は、万博会場跡地でカジノを含む統合型リゾート(IR)の整備を進める計画が上がっている点についても指摘した。
〈そこ(IR)で得られた利益は地元の人々にきちんと還元されるのでしょうか。ましてカジノは日常生活に悪影響を及ぼしかねない施設。地元経済のカジノ依存を招き、その地の産業のかたちを歪める「負の遺産」になることも考えられます。
私は万博を中止した方が良いとか、万博が「悪」だとは思っていません。ですが、今回の計画が地元住民、ひいては日本の社会のためになっているのかと考えると、疑問を抱かざるを得ない。万博協会や、この計画に携わる建築家たちは、そのことをもう一度立ち返って考える必要があると思います〉
7月9日(火)公開の「文藝春秋 電子版」、および7月10日(水)発売の「文藝春秋」8月号に掲載される「大阪万博はコミュニティを忘れるな」では、これまで設計した作品への想いや、地域コミュニティを大切にするようになったきっかけ、日本の建築業界の問題点について語っている。
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