「僕はJリーガーなんだ」とブラフも織り交ぜた
伝手があったわけではない。
当時の豪州はプロリーグができたばかりで、外国人選手が数多くいる状況でもなかった。
「まずは2部リーグのチームの練習を調べて、そこに突撃しました。練習会場に行って、その時の監督さんに『ちょっと練習に混ざっていいか』という感じで。その時は『僕はJリーガーなんだ』って言ったりもしましたけど(笑)。向こうの人は詳しい事情は知らないんで、そういうブラフも織り交ぜて。それで練習に参加しているうちに、契約してくれることになったんです。
後々クラブの会長と話をしたら『もし俺があの時練習場に居たら、飛び入りのお前を練習に参加なんかさせなかったよ』と言っていたので、いろんな運やタイミングが重なって入団できた部分も大きいですね。そこからフロントの人が『活躍したらシドニーの知り合いにも伝えておくよ』と言ってくれて、頑張って結果を出して今度はシドニーFCの練習に混ぜてもらって、そこでの動きを認められてようやくシドニーFCに入団できたんです」
そんな豪州でのプロ生活の中で再認識したのが、語学力の重要性だったのだという。
「単純にサッカーの実力だけを見た時、僕より上手い選手なんてたくさんいました。でも、英語でのコミュニケーション能力の部分で秀でることができたからこそ、豪州のNo.1クラブで戦うことができたんだと思います」
誰も通訳をつけることなく普通に会話していた
一方で、同時に感じたのが、他国の選手たちの語学能力の高さだった。
「当時のシドニーFCには僕以外にも韓国人、オランダ人、フィンランド人の選手がいて、監督はチェコ人。でも、誰も通訳をつけることなく英語で普通にコミュニケーションをとっていた。僕みたいな特殊なバックボーンの人間はともかくとして、他の英語が母国語ではない国の選手も普通に話せていたので、語学によるコミュニケーション能力の育成環境は明らかに日本よりも良いと感じたんです」
そして、その点こそが日本の選手に欠けている部分だとも痛感しているという。
「サッカーの技術が素晴らしい選手でも、いざ海外に出ると環境に馴染めず、コミュニケーション能力の差で活躍できないケースも多い。言葉のできない選手とできる選手だったら、少しくらいスキルが劣っていても、やはりコミュニケーションを取れる選手が選ばれる。それは僕自身が一番実感しましたから、間違いないと思います。
もちろんキャラクターの問題もありますよ。例えばシドニーFCには“キング・カズ”こと三浦知良選手も在籍していたことがあったんですが、チームメイトに『カズ選手、どうだった?』って聞いたら、やっぱり『すごかった』と。みんなリスペクトを持っていました。トヨタカップで日本に来た時に、新幹線で移動中、東京駅で降りる直前にカズ選手がサングラスやハットをつけ始めて、選手はみんな『急にどうしたんだ?』みたいに驚いたらしいんです。それで新幹線を出た瞬間にカメラマンがいたから『あぁ、やっぱりこの人はすごいんだ』と思ったみたいで。
そういう風にカズ選手クラスの人は向こうからコミュニケーションを取りに来てくれるんでいいと思いますけど、普通の選手はなかなかそういうわけにはいきませんから(笑)」