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この日本医師会の説明も十分とは言えないのだが、もっとも重要なのはACPの主役・主体は「本人」であるという点だ。

ところが同党の政策パンフレットでは「本人や家族が望まない医療を抑制」とある。うっかりすると読み流してしまうが、「本人が望まない医療を抑制」とは書かずに「家族」を滑り込ませている。ACPの本質を完全に捻じ曲げてしまっているのである。

同党に医療ブレインがいるのか私は知らないが、ACPの本質を知りつつ意図的に「家族」を組み込んだのだとすると非常に悪質であるし、知らずに入れたのであれば不勉強も甚だしい。その程度の知識でACPを語ることは、日々現場でACPを実践している医療者から言わせると、迷惑きわまりない。

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「終末期は管だらけ」という大誤解

重要なので繰り返すが、あくまでもACPの主体は本人。本人と家族を「同列」に扱ってはならないのである。かりにどんなに円満な家族であっても、家族は本人とは別個人。しかも言葉に出す出さないにかかわらず、意図するしないにかかわらず、本人の希望に少なからぬ影響を与え得るのが家族なのだ。「自己決定権の問題」との認識があるのであれば、家族であっても、そこに意思決定者として同列に入れてはならないのである。

その意味では、ACPを事前におこなっておき、第三者でも確認できるように記録しておくことは非常に重要である。私の仕事場である在宅医療ではまさに高齢者医療や終末期医療が主体であるため、「してほしいこと」「してほしくないこと」を繰り返し本人に問い、医療チーム全体でその意思に沿って治療とケアをおこなっていく努力をしている。

そしてその現場では、少なからぬ人が誤解している「終末期は管だらけ」という医療は、いっさいおこなわれてはいない。今やほとんどの患者さんが、「最期は自然な形で迎えたい」と希望するからである。

終末期に入院させてくれる病院などない

本人の意思に反した延命治療を医師が無理やり押しつけるということはないばかりか、法制化などされなくとも、現状でも、当事者本人の尊厳と意思を最大限に尊重した「終末期医療」をおこなうべく、現場では日々努力と省察が繰り返されているのである。