SNSでは「医者はカネ儲けのために終末期の高齢者も死なせないように管だらけにするのだ」「尊厳死の法制化に反対する医師はカネ儲けできなくなるから反対するのだ」といった言説を流布している人も見かけるが、これも大きな事実誤認だ。そもそも老衰で終末期を迎えた高齢者に集中治療をおこなうために入院させてくれる病院などはない。
もし本人の意思と異なる老衰での胃瘻(いろう)や点滴がおこなわれることがあるとするなら、それは医師の勧めや押しつけではない。そのほとんどは家族の要望である。
老衰末期でいよいよ経口摂取不能となった場合の点滴が、医学的に意味をなさないのは医療者のあいだでは常識であることから、こちらから点滴の提案を家族に持ちかけることは、まずない。
何年も人工栄養で延命するのは終末期医療ではない
だが家族との話し合いのなかで「食事も水分も摂れないのに見殺しにはできない、点滴すらしてもらえないのか」という家族は少なからずいる。そのような家族にたいして、苦痛の除去や延命にはならないことを十分に説明した上でもなお希望される場合に一時的に点滴をおこなうケースも、たしかにある。だがそれは、本人のためというより、家族の心を満たす意味合いのものなのである。
ただそれとて、数週間も数カ月間もおこなうものではない。最長でもひと月程度だ。食事が摂れなくなった老衰末期では、かりに点滴しても胃瘻から栄養を入れても何カ月も何年も生き永らえさせることはできない。
つまり「高齢者の終末期に何カ月も何年も人工栄養で生き永らえさせる」という医療は、現実には起こり得ないのである。もしこうした医療行為で何カ月も何年も生きている人がいるなら、その人はそもそも「終末期」ではない。
つまり玉木代表のいう「終末期医療の見直し」とは、なにをどう見直すべきだと言っているのか、まったく意味が不明なのである。どこが問題なのかいっさい具体的に述べないところを見ると、終末期医療の実態をご存じないのかもしれない。