捜査終結を「遺族は誰も納得していません」
当時、A4用紙で4枚に及ぶこの告発状を提出した、A家の親族である男性に話を聞いている。
「A家の近くにはもっと大きな家もあれば、もっと高価なベンツに乗っている家もある。どうしてあの家なのか。それに、なぜ彼らはAが必ず帰ってくることを知っていたのでしょうか。金だけが目的ならば、妻であるBをすぐ殺さずに、金のありかを聞き出せばいいじゃないですか。
遺族はこれで捜査が終結となってしまうことに、誰も納得していません。犯人がただ金を奪うつもりであれば、あれほどまで周到に事前の準備をしたり、わざわざ遺体を捨てにいったりする必要はないと思う。この事件は絶対に、なにかほかの目的を持った“黒幕”がいるはずなんです……」
このように、捜査本部が発した、金銭目的の中国人留学生による、単独の犯行であるとの説明には、疑問が尽きないというのだ。
告発による新たな展開は望めず
とはいえ、告発状に記された、「Aさん宅近くで犯行当日に不審な車両が止まり、中から背の高い女性が降りてきた」という目撃証言があったことや、「Aさん所有の乗用車によく似た乗用車と、別のもう1台が猛スピードで走行しているところが目撃されている」との指摘については、福岡県警担当記者が以下の説明をしている。
「背の高い女性が家に入っていったとの目撃証言については、時間帯が確認できないので、捜査本部は、事件とは関係ないとの見解のようです。また同様に、タクシー運転手が遺体投棄現場に向かう2台の外車を目撃したとの情報がありましたが、捜査関係者は、3人の犯人が供述したルートとは違うと否定しています。とはいえ、家に入ったとされる時間帯や、車がどのルートを通ったかについては、具体的に明かされていません」
当時、私自身もこの目撃談の存在についての情報は、福岡県警担当記者から得ていた。だが、実際に目撃者とされる人物への取材には至らなかったため、犯行に繋がるかどうかは不明なまま、そういう話が存在する、との扱いしかできなかったのだ。
事件を背後で指示した“黒幕”の捜査を求める、同告発状が提出されたことについて、私はその当時に報じているが、すでに捜査は尽くされていたのだろう。告発を受けて、新たな捜査が始められたという話を耳にすることはなかった。
かくして、この事件について世間が抱く関心は、中国と日本でそれぞれ開かれる、3被告の裁判におけるやり取りに、移り変わっていくのである。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。